Author profile
山下午壱
1968年生まれ。兵庫県出身。 玩具業界(商社)、映画業界を経て人材サービス業界で20年働く。 代表取締役として年商10億円台の人材サービス会社を70億円台まで成長させる。 現在はエグゼクティブコーチ/経営コンサルタントとして活動中。
経営者は1日に2つ以上の決断をすべきではない戦術・戦略的理由

経営者の仕事は「決断すること」だと言われます。

私自身も以前は、迷わず決め続けることが優秀だと思っていました。

ところが実際は、決断が増えるほど頭が散らかり、本当に重要な判断が後回しになります。

本記事では「戦術的判断」と「戦略的判断」の違いを軸に、なぜ経営者は1日に2つ以上の決断をすべきではないのかを整理します。

記事3行まとめ

  • ✅経営者が疲弊する原因は能力ではなく「判断のし過ぎ」
  • ✅戦術と戦略を混同すると重要な決断ほど後回しになる
  • ✅判断を1日2つに絞ることで戦略思考は回復する

 

第1章:経営者の判断はなぜ増え続けるのか

経営者の判断が増える一番の理由は、判断が「自然に集まる構造」になっているからです。

現場の小さな例外対応、取引先の細かな要望、社員からの相談。どれも放っておくと止まってしまうので、最終的に経営者のところへ来ます。

しかも日本の中小企業では「社長が決めるのが早い」という空気があり、スピードのために判断が集中しやすいです。

私も過去に、メール返信から価格の細部まで自分で握っていました。

「自分が決めれば早い」は事実ですが、その積み重ねで一日が埋まり、売上や採用など本題に手が回らなくなりました。

判断が増えるのは能力不足ではなく、仕組みが未整備な状態で起きる、ごく自然な結果です。

第2章:戦術的判断とは何か

戦術的判断とは、日々発生する「目の前の処理」を進めるための判断です。

たとえば、今日の優先順位、顧客からの急な変更、見積りの微修正、トラブルの一次対応などです。

どれも重要に見えますが、ほとんどは会社の方向性を変えるほどではありません。

それでも放置できないため、経営者の時間をじわじわ削ります。

私が一番つらかったのは、戦術的判断を連続で行うほど、頭が「細部モード」になってしまうことです。

細部に強くなる一方で、全体の見通しが弱くなります。

結果として、戦術的判断をこなせばこなすほど、経営者が本来担うべき判断に入りづらくなりました。

第3章:戦略的判断とは何か

戦略的判断とは、会社の進む方向や優先順位を決める判断です。

どの商品やサービスに力を入れるのか、どの仕事をやめるのか、どんな人材を採るのか。

頻度は少ないですが、一つひとつの影響は大きく、数年単位で結果に差が出ます。

本来、経営者が最も時間を使うべき判断だと私は考えています。

ところが実際には、この戦略的判断は「後回し」にされがちです。

理由は単純で、緊急性が低いからです。

私自身も、日々の対応に追われていると、「時間ができたら考えよう」と先送りしていました。

しかし、判断を先延ばしにしている間にも会社は動き続け、気づけば流れに乗るだけの経営になっていました。

戦略的判断は、頭に余白がないとできません。

細かな判断を繰り返した後では、視点が近くなり過ぎてしまい、全体を俯瞰することが難しくなります。

だからこそ、戦略的判断は「気合」ではなく、考えられる状態を意図的につくる必要があると感じています。

第4章:なぜ1日に2つ以上の決断をすべきではないのか

経営者は決断が多いほど優秀だと思われがちですが、医学・心理学の観点では必ずしもそうではありません。

人の脳は、判断を行うたびにエネルギーを消費します。

特に「考えて選ぶ」判断は、脳の前頭前野と呼ばれる領域を強く使うことが分かっています。

この部分は集中力や抑制、比較を担いますが、使い続けると確実に疲労します。

心理学ではこの状態を「意思決定疲労(ディシジョン・ファティーグ)または「決断疲れ」と呼びます。

有名な研究では、判断を多く行った後ほど、人は現状維持や無難な選択に傾きやすくなる傾向が報告されています。

意欲や能力の問題ではなく、判断力そのものが一時的に低下する現象です。

私自身も、判断が立て込んだ日の夕方になると、「もう深く考えられない」という感覚を何度も経験しました。

その状態で下した決断を後から振り返ると、挑戦よりも現状維持を選んでいることが多く、結果として経営のスピードが鈍っていました。

一方で、日々の判断を減らし、定型的なものを仕組みに任せるようにすると、重要なテーマについて落ち着いて考えられる時間が残ります。

医学的にも、習慣化された行動は脳の別の回路で処理され、判断の負荷がほとんどかからないとされています。

だからこそ、経営者が1日に行うべき「本当に重要な決断」は、多くても2つ程度で十分だと私は考えています。

第5章:判断に悩む経営者に伝えたい視点

判断に迷うこと自体は、経営者として自然なことです。

むしろ、何も迷わず決め続けられる状態のほうが危ういと私は感じています。

問題は迷うことではなく、判断の数が多すぎることです。

判断力は才能ではなく、有限な資源です。

すべての判断に同じエネルギーを使っていては、本当に重要な場面で力を発揮できません。

経営者の役割は、すべてを決めることではなく、「何に判断力を使うか」を選ぶことだと思います。

もし今、判断に疲れていると感じているなら、それは能力不足ではありません。

まずは決断の数を見直すこと。その一歩が、経営を考え直すきっかけになるはずです。


よくある質問(FAQ)

Q1. 「1日に2つ以上の決断をすべきではない」は厳しすぎませんか?

ここで言う「決断」は、会社の方向性を左右するような重要な判断を指します。細かな戦術的判断までゼロにする話ではありません。重要な決断を少数に絞り、判断力を温存するという考え方です。

Q2. 戦術的判断と戦略的判断は、どう見分ければいいですか?

目安は「その判断が半年〜数年後の成果に影響するか」です。短期の処理や調整で済むなら戦術的判断、会社の優先順位や方向性が変わるなら戦略的判断です。

Q3. 戦術的判断を任せると、現場が混乱しませんか?

任せ方が大切です。いきなり丸投げではなく、判断基準(ルール)と範囲(権限)を先に決めます。よくある判断ほど、ルール化すると現場のスピードは上がります。

Q4. 判断に自信が持てないのは、能力不足なのでしょうか?

能力不足とは限りません。判断の数が多すぎると、誰でも思考が鈍ります。まずは「判断の総量」を減らし、重要な決断に集中できる状態をつくることが先です。

Q5. 明日からできる「決断を減らす」第一歩は何ですか?

今日の判断を「戦術」と「戦略」に分け、戦術的判断のうち「繰り返し発生するもの」を1つだけ選んでルール化してください。小さく始めるほど継続しやすく、効果が出ます。

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