2023年版中小企業白書が取り上げた「社長の右腕」に関する違和感

2023年版中小企業白書が取り上げた「社長の右腕」に関する違和感

2023年版中小企業白書によると、事業の拡大、成長において「社長の右腕」と言われる人材がキーポイントになる、と書かれています。

また、「右腕人材とは、社内において経営者に続くナンバー2の立場にあり、会社経営を行う上での悩み事が相談できる等、経営者が厚い信頼を寄せる人材だと定義しています。」が本当にそうなのでしょうか?

中小企業白書が定義する「社長の右腕」とはどのような人材なのか?

中小企業庁が定義づける「右腕人材とは、社内において経営者に続くナンバー2の立場にあり、会社経営を行う上での悩み事が相談できる等、経営者が厚い信頼を寄せる人材だ」と定義しています。

この定義について1つずつ確認することで、定義の信ぴょう性を確認したいと考えます。

1.「社内において経営者に続くナンバー2の立場」

この部分に関してはほぼその通りだと思います。

逆言えば、ナンバー2の立場でない人間が社長に代わって実務を円滑に運用することはできません。

社長の右腕という存在は、社長が経営に専念する代わりに、会社の実務面を会社の方針に沿った形で実行する必要性があり、社長の右腕たる人材が2人も3人も会社に存在していたのでは、指示命令系統が並列化することになり社内が混乱を極めます。

2.「会社経営を行う上での悩み事が相談できる」

この経営に関する悩み事が相談できるという部分には私は違和感を感じます。

中小企業・ベンチャー企業の社長の右腕は相談相手として適切なのか?

社長の右腕と言われる人(実質の会社のNo.2)がいる会社がありますが、その社長の右腕たる人物は、中小企業・ベンチャー企業の社長の適切な相談相手と言えるのでしょうか?

私はこちらの記事で社長の右腕は適切な相談相手ではない、と定義づけています。

なぜならば、社長の右腕を経営に関する相談相手にすることで、社長の意志が会社の方針に反映しずらくなる、つまりそこには社長の右腕への配慮、気遣いが発生することになり、本来1番重要である社長の会社に対する方針がブレるまたは遅延する可能性があるからです。

実務は経営方針に沿った形で行われるべきであり、その会社方針は社長が考えるべき事項であり誰かに助言、アドバイスを求める場合は利害関係のない人材でなければいけないと考えるからです。

3.「経営者が厚い信頼を寄せる人材」

これに関しては1.と同様にその通りであるべきだと考えます。

信頼関係がなければ組織を運営することはできません。

また、権限委譲に関しても同様です。

もちろん、組織にはルールが必要であり、権限委譲もそのルールの範囲に限定されることが前提ですが、会社の実務面を全面的に任せる人材は、その中でも社長から1番信頼されるべき人間が選ばれるのは当然だと考えます。

社長の右腕が存在する会社は成長性が高いのか?

また中小企業白書において、「既存事業拡大と新規事業創出に取り組んだ際の、右腕人材の関与度合い」「売上高増加率の水準(中央値)を見たところ、右腕人材が「いた」と回答した企業(35.0%)は、「いなかった」と回答した企業(32.0%)に比べて、売上高増加率の水準が高かった」とし、社長の右腕の存在性意義を見出しています。

これに関しては、会社の方針が優れており、かつそれを忠実に実行したことが既存、新規問わず成長に寄与したと考えるのが通常であると考えるので、社長の右腕の存在が会社の成長性を左右とした、という結論は少し違和感を覚えます。

私の考えであれば、経営と実務を分離し社長の右腕が社長の裏方となり忠実に社長の方針に沿った運営を行うことができた結果が、会社の成長に結びついたと考えます。

どれだけ優秀な実務家が存在しても作戦そのものが陳腐であれば、それ以上の成果を出すことは難しいと考えるからです。

売上増加率の話も同様で社長の右腕が優秀、かつ社長の方針に間違いがなかったことが売上増加率に寄与していると考えます。

中小企業が定義する社長の右腕とは

2023年版中小企業白書が取り上げた「社長の右腕」とは、一般的なイメージの社長の右腕とは少し違うと思われます。

なぜならば、「右腕人材を社内で育成していく上では、意識的に権限委譲をしたり、経営陣との接点を増やしたりしながら、候補となる人材が経営者目線を持つよう促していくことが重要である」と述べるように、この場合の「社長の右腕」は現社長の後継者を意識した内容になっていると考えられます。

意識的な権限委譲、経営者目線を持つ、ということはもちろん会社の経営陣の1人として持つべき資質であり責任でもありますが、それを育成するという観点から考えると、ここで書かれている「社長の右腕」とは後継者育成と読み替えることができると思います。

社長の右腕たる人物は育てるものではなく、社長が選ぶものであり、社長の期待に応えることができる人材まで登り付けることができる人間です。

そうでなければ、組織全体が会社のナンバー2である社長の右腕を信頼できる人物だと認識できないからです。

しかし、後継者はいずれ会社のナンバー1として会社を牽引する立場であるため、そのような人材が登場するまで待つ余裕はありません。

日本の会社の多くは非上場の中小企業であり、オーナー社長であることを考えると親族が後継者になるのが一般的です。

よって、後継者が会社のナンバー3、ナンバー2、と登り付けることができる人材であれば良いですが、多くの場合は登り付くまでにタイムリミットを迎えることになります。

だから、後継者は意図的に育てることが必要であり、その方法が権限委譲であり、中小企業白書が定義した「社長の右腕」の条件にある「会社経営を行う上での悩み事が相談できる」相手にふさわしい人材と言えます。

この場合の相談は相談ではなく経営者教育の一環であり、まさに後継者育成のプロセスに過ぎません。

よって、2023年版中小企業白書で定義づけられている「社長の右腕」は後継者を指すものであり、一般的に言われている「社長の右腕」とは少し意味合いが違うと私は考えます。

【引用・参照元】

社長の右腕とは 育成に必要な「意識的な権限委譲」 中小企業白書が指摘 | ツギノジダイ

 社長の右腕とは、2023年版中小企業白書によると、「社内において経営者に続くナンバー2の立場にあり、会社経営を行う上での悩み事が相談できるなど、経営者が厚い信頼…

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