社員が辞める本当の理由が“感謝不足”である3つの理由

社員が辞める本当の理由が“感謝不足”である3つの理由

多くの中小企業・ベンチャー経営者が、社員の離職理由を「給与が低い」「福利厚生が弱い」と考えがちです。しかし、実際にはもっと根本的な感情の問題、すなわち「感謝されていない」「認められていない」という思いが社員の心を静かに蝕んでいるのです。

本記事では、Inc.誌の人気コラムニストであるMarcel Schwantes氏の提言を引用しながら、なぜ“感謝不足”が社員の離職につながるのかを、心理学・組織論・最新の調査データをもとに3つの視点から解説します。

この記事のポイント
  1. 感謝不足が離職の引き金に:社員が辞める本当の理由は給与ではなく、日々の感謝や承認がないこと。
  2. 感謝が心理的安全性を生む:感謝は「見られている感覚」を与え、意見が言いやすい職場をつくる。
  3. 経営者の感謝が信頼をつくる:上司や経営者の言葉が信頼と尊敬につながり、離職防止に直結する。

 

Marcel Schwantes氏が示した「社員が職場に残りたくなる」たった一つの言葉

ビジネス誌『Inc.』に掲載されたMarcel Schwantes氏の人気記事「What Will Make People Really Stay at Their Jobs? You Can Sum It Up in 1 Word」では、社員が会社に残り続ける理由をAppreciation(感謝・承認・敬意)というたった一つの言葉で明確に示しています。

Schwantes氏はこう断言します:

“When people don’t feel appreciated, they leave.”
「人は、自分が感謝されていないと感じたとき、職場を去る」

ここでいう“Appreciation”とは、ただの「ありがとう」ではありません。社員の存在、努力、貢献を「価値のあるものとして正当に認める」ことを意味します。それは言葉だけでなく、態度や行動にも表れます。

記事では、感謝の文化がある職場は、離職率が低く、エンゲージメントが高く、生産性も向上すると指摘されています。一方、感謝が欠けている職場では、社員が自発的に動かなくなる“静かな退職(Quiet Quitting)”や、最低限の業務しか行わない心理的離脱が起こるといいます。

Gallup社「The Importance of Employee Recognition」要約

この主張は、米Gallup社の調査データとも一致します。感謝されていると感じる社員は、そうでない社員に比べてエンゲージメントが2倍以上高く、離職率も顕著に低いという結果が報告されています。

つまり、感謝という“たった一つの言葉”があるかどうかで、社員の心理的な距離が決まり、結果として会社に「残るか、去るか」が左右されるのです。

理由1.感謝されない職場では「心理的安全性」が崩れる

社員が安心して意見を言い、行動できる職場には、「心理的安全性」があります。これは、Googleが社内研究プロジェクト「Aristotle(アリストテレス)」で発見した、チームのパフォーマンスを左右する最重要要素です。心理的安全性がある職場では、ミスをしても責められず、意見が尊重され、存在そのものが認められていると感じられます。

この心理的安全性を支える重要な要素こそが、感謝です。社員の努力や貢献が無視されたり、「やって当たり前」と扱われたりすると、自分の存在価値を疑い、不安や沈黙が広がります。結果として、自主性や創造性が失われ、チームの成果にも悪影響を及ぼします。

感謝は、「あなたを見ている」「あなたの行動は意味がある」と伝える最もシンプルな方法です。それは業務報告やフィードバックよりも感情に直接届き、社員の安心感と関係性の強化につながります。

経営者や上司が感謝の文化を育てることは、職場全体に心理的安全性をもたらし、離職の予防策として強力に機能するのです。

理由2.感謝のない上司・経営者は信頼されず、離職の引き金になる

多くの離職理由には、「上司に対する不信感」が含まれています。リクルートマネジメントソリューションズの調査によれば、上司への信頼が損なわれた職場では、社員の納得感や適応感が低下する傾向が見られます。これは裏を返せば、「信頼・敬意を持てない上司や経営者」のもとでは、社員が定着しにくくなるリスクが高いことを示唆しています。その不信の根底にあるのが、感謝や敬意の欠如です。

社員は成果だけでなく、日々の姿勢や努力も見てほしいと願っています。にもかかわらず、それが承認されない、感謝されないと感じた瞬間に、「この会社では頑張っても意味がない」と判断されてしまいます。

Gallup社の調査でも、「最も記憶に残る感謝の言葉は、上司や経営者からの直接的な承認」とされています。日々の声かけや行動こそが、上司に対する信頼の土台なのです。

「ありがとう」を口にしない上司は、意図せずして社員との距離を生んでいます。経営者が「感謝の伝達者」としての役割を意識することで、組織の信頼関係は大きく変わります。

理由3.感謝されないという感覚は積み重なり、静かに心が離れていく

離職には「突然辞めたように見えるケース」が多くあります。しかし、その多くは、ある日突然ではなく、長期間にわたって少しずつ心が離れていった結果です。そして、その引き金の一つが「感謝されていない」という感覚です。

日々の業務の中で、成果を上げても何も言われない。努力しても無反応。会話は命令や指示ばかり──こうした無関心の積み重ねは、社員に「自分はいてもいなくてもいい存在なのかもしれない」と思わせます。

特に中小企業やベンチャーでは、業務が多忙なあまり「感謝や承認」が後回しになりがちです。しかしそれは、社員にとっては「自分は価値を感じられていない」という無言のメッセージとして受け取られます。

Inc.のMarcel Schwantes氏も、「感謝の欠如は、最も過小評価されている離職要因である」と強調しています。組織内に“見えない無関心”が広がる前に、感謝を「伝える文化」が必要です。

まとめ:感謝は制度ではなく、“経営姿勢”である

社員が辞める本当の理由は、給与でも制度でもなく、「感謝されていない」という実感かもしれません。そしてそれは、数字には出ない静かな危機です。

感謝はコストゼロで始められる、最も効果的なマネジメント手法です。「ありがとう」と言う文化は、心理的安全性、信頼関係、モチベーションを同時に高め、離職率を自然に下げます。

企業の未来は、日々の小さな言葉に宿ります。経営者自身が「感謝を届ける存在」となることで、社員は職場に残りたくなる──それが、持続可能な組織づくりの第一歩です。

FAQ(よくある質問)

Q1. 感謝されていないと感じた社員は、どのような行動を取りがちですか?

感謝がないと感じる社員は、自主性や発言を控えるようになり、最終的には「静かな退職(Quiet Quitting)」や転職活動に移行しやすくなります。

Q2. 感謝不足を見える化する指標はありますか?

エンゲージメントサーベイや定期1on1で「認められている実感」「上司への信頼感」を質問に組み込むことで、間接的に測ることが可能です。

Q3. 経営者が感謝を表す際、最も効果的な方法は何ですか?

成果や努力に対して即時に言葉でフィードバックすることです。形式的な表彰より、日常的な一言の方が社員には響きます。

Q4. 感謝されていないと感じる職場の社員に起こる心理的影響は?

「自分の価値が認められていない」という感覚が、無力感・疎外感・仕事のやりがいの喪失につながりやすくなります。

Q5. 感謝の文化を社内に定着させるコツは?

上司・経営者自身が「感謝を見える化する」ことです。感謝を伝える習慣をチームに広げ、行動として定着させることが重要です。

投稿者プロフィール

山下午壱
山下午壱エグゼクティブコーチ/経営コンサルタント
1968年生まれ。兵庫県出身。
玩具業界(商社)、映画業界を経て人材サービス業界で20年働く。
代表取締役として年商10億円台の人材サービス会社を70億円台まで成長させる。
経営の傍らで多くの経営者と交流し、中小企業の社長の立場でコーチング、コンサルティング実績を積む。
現在はエグゼクティブコーチ/経営コンサルタントとして活動中。