
ChatGPTを、アイデア出しや意思決定前の「壁打ち」に使う社長は、いまや珍しくありません。
海外でも、中小企業オーナーがAIを助言目的で使う割合が高いという調査が出ています。
私自身も、価格案や採用文、研修の骨子を考える場面で、短時間で論点が整理される便利さを何度も感じてきました。
頭の中に散らばっていた考えが、言葉として並ぶだけで、ずいぶん楽になることがあります。
ただ、エグゼクティブコーチの代わりに「次の一手」まで丸ごと預けてしまうと、判断の力が落ちていく感覚もありました。
楽になる一方で、考える力を手放してしまうからです。
この記事では、AIを味方につけながらも、経営者が越えてはいけない境界線を、3つの理由に分けて整理します。
この記事のポイント
- ✅ChatGPTは経営者の答えを出す存在ではない
- ✅エグゼクティブコーチは問いで判断力を鍛える
- ✅AIは壁打ち相手、決断と責任は社長の仕事
第1章:ChatGPTをコーチ代わりに使う経営者が増えている
中小・ベンチャー企業の社長は、日々多くの判断を迫られます。
一方で、気軽に相談できる相手は決して多くありません。
だからこそ、24時間いつでも返事が返ってくるChatGPTは、とても魅力的に映ります。
私も夜中に、「この施策の論点は何か」「反対されそうなポイントはどこか」と投げかけ、頭の中を整理したことが何度もあります。
誰かに説明するつもりで言葉にすると、自分の考えが見えてくる。そんな感覚です。
ただ、便利さが増すほど、「自分で考える時間」が削られていくのも事実だと感じました。
返事が早い分、結論を急ぎやすくなるからです。
採用、価格、提携、撤退。こうした判断に、明確な正解はありません。
しかも中小企業では、社長の一手が売上や粗利、キャッシュフローに直結します。
本当に必要なのは、答えを早く得ることではなく、前提を疑い、選択肢ごとのリスクとリターンを見極める力です。
AIは強力な道具ですが、社長の責任や覚悟を引き受けてくれるわけではありません。
まずは、エグゼクティブコーチングとAIの役割の違いを整理していきます。
第2章:理由① ChatGPTは答えを提示し、エグゼクティブコーチは質問を投げかける
ここでいうエグゼクティブコーチは、答えを与える人ではありません。
社長が自分で答えにたどり着けるように、問いを設計し、思考の癖を映し返す存在です。
一方、ChatGPTは、投げられた質問に対して「それらしい答え」を提示するのが役割です。
私自身も、売り方の案を出してもらい、見落としていた選択肢に気づかされたことがあります。
その点では、とても助かる存在です。
ただ、その場で起きているのは、思考の訓練というより、案を受け取っている状態に近いと感じます。
答えが目の前に出てくると、「本当にその客層でいいのか」「利益は残るのか」「実行できるのか」といった前提確認を飛ばしてしまいがちです。
エグゼクティブコーチは、そこを止めにきます。
「なぜそれを選ぶのですか」「選ばなかった場合、何を失いますか」と問い直し、社長自身に考えさせます。
その積み重ねが、判断の力を鍛えていきます。
ChatGPTにも質問はできますが、沈黙や迷いを感じ取り、あえて痛い問いを投げてくるわけではありません。
だから私は、ChatGPTを“答えの製造機”にはせず、壁打ちの材料を増やす役として使うと決めています。
たとえば価格の相談では、提示された案をそのまま採用せず、必ず自分の数字で粗利率や作業時間を計算するようにしています。
第3章:理由② ChatGPTは経営判断の責任を引き受けられない
経営判断において最も重いのは、「責任」です。
どんなに情報を集め、選択肢を並べても、最後に決めて結果を引き受けるのは社長自身です。
ChatGPTは、判断材料を整理したり、別の視点を提示したりはできますが、その判断の結果に責任を持つことはできません。
私自身、ChatGPTに背中を押されるような表現をもらい、「これでいこうか」と感じた場面がありました。
ただ、冷静に考えると、失敗したときに困るのは私であって、AIではありません。
資金繰りが厳しくなるのも、社員に説明するのも、取引先に頭を下げるのも、すべて社長の役目です。
エグゼクティブコーチは、その点を曖昧にしません。
むしろ「それを選んだ責任を、あなたは引き受けられますか」と問いかけてきます。
責任から目をそらさせないこと自体が、コーチングの重要な役割です。
責任を負わない存在に判断を預けすぎると、経営者としての覚悟は少しずつ鈍っていく。私はそう感じています。
第4章:理由③ ChatGPTは自己認識を深めることができない
ChatGPTを使うと、自分の考えが整理され、「分かった気になる」瞬間があります。
実際、言葉にして返ってくることで、頭の中がすっきりする場面も多いでしょう。
ただ、それは自己認識が深まった状態とは少し違うと、私は感じています。
自己認識とは、
- なぜ自分はその選択をしようとしているのか
- 何を恐れているのか
- どこで判断を避けているのか
に気づくことです。
これは、情報を整理するだけでは起きません。ときには不快な感情や、目を背けたい弱さに向き合う必要があります。
エグゼクティブコーチは、こうした内面に踏み込んできます。
話の流れや言葉の選び方から、社長自身も気づいていない思考の癖を指摘し、立ち止まらせます。
一方、ChatGPTは、入力された言葉の外側にある感情や迷いを感じ取ることができません。
整理はできますが、内省を促す存在ではない。ここに、代替できない決定的な違いがあると思います。
まとめ:ChatGPTはコーチではなく、経営者の壁打ち相手である
ChatGPTは、経営者の思考を整理し、視点を増やしてくれる優れた道具です。
私自身、アイデア出しや論点整理では大きな助けを感じています。
ただし、エグゼクティブコーチの代わりにはなりません。
答えを提示し、責任を負わず、内面に踏み込まない存在だからです。
経営の最終判断は、必ず社長自身が引き受ける必要があります。
だからこそ、ChatGPTは判断を委ねる相手ではなく、考えをぶつける「壁打ち相手」として使う。
その距離感を保てるかどうかが、AI時代の経営者に問われていると私は感じています。
よくある質問(FAQ)
Q1. ChatGPTは本当に経営判断に使ってはいけないのですか?
いいえ、使ってはいけないわけではありません。論点整理やアイデア出しなど「壁打ち相手」としては有効です。ただし、最終判断や責任まで預けてしまうと、経営者としての判断力が弱くなる可能性があります。
Q2. エグゼクティブコーチとChatGPTの決定的な違いは何ですか?
最大の違いは「問い」と「責任」です。エグゼクティブコーチは答えを与えず、経営者に問いを投げかけ、判断の責任を本人に戻します。一方、ChatGPTは答えを提示しますが、責任を引き受けることはできません。
Q3. 中小企業の社長でもエグゼクティブコーチは必要ですか?
会社規模に関係なく、意思決定の質が業績に直結する立場であれば有効です。特に採用・価格・提携・撤退といった判断を一人で抱える社長ほど、外部の視点が役立ちます。
Q4. ChatGPTを使うと考える力が落ちるのでしょうか?
使い方次第です。答えをそのまま採用する使い方を続けると、自分で前提を疑う力が弱まる可能性があります。一方、問いを深める材料として使えば、思考を広げる助けになります。
Q5. ChatGPTとエグゼクティブコーチは併用できますか?
はい、併用することで効果が高まります。ChatGPTで論点や選択肢を整理し、エグゼクティブコーチとの対話で判断の覚悟や視点を深める。この役割分担が理想的です。



