中小企業が成果主義を導入すると優秀な従業員から辞める理由

中小企業が成果主義を導入すると優秀な従業員から辞める理由

成果主義は「がんばった人が報われる」制度として、特に中小企業にとって魅力的に映ります。

大企業と違い、人件費も限られる中で、少数精鋭のチームに効率的に働いてもらうために導入されることが多いのが実情です。

しかし、現場では「成果主義を始めたら、かえって優秀な社員が辞めてしまった」というケースも少なくありません。

本記事では、中小・ベンチャー企業において成果主義がなぜ機能しにくく、どんな構造的問題が起こるのか、そして優秀な人材の離職をどう防ぐべきかを分かりやすく解説します。

この記事のポイント

  • ✅ 優秀な社員が辞める理由
    成果だけで評価すると、貢献が無視され離職につながります。
  • ✅成果主義の落とし穴
    数字だけの評価では、支援行動や改善努力が見過ごされます。
  • ✅ 離職を防ぐ評価制度
    行動・影響力・キャリア多様性を組み込んだ評価が鍵です。

 

なぜ中小企業は成果主義に魅力を感じるのか

成果主義とは、社員一人ひとりの仕事の成果に応じて評価や報酬を決める仕組みです。

中小企業にとっては、「限られた人員でいかに最大の利益を上げるか」という命題に直結する制度といえます。

実際に、多くの経営者は「がんばった社員をきちんと評価したい」「不公平感をなくしたい」という思いから成果主義を導入します。

また、社員のやる気や競争意識を高め、組織の活性化を期待する声も多くあります。

さらに、大手企業が導入しているからという理由で追随するケースもあります。

特にIT系や営業職など、成果が数値化しやすい業界では「合理的な制度」として注目されがちです。

一見すると理にかなっており、成功しそうな制度に思えますが、実は中小企業においては「思わぬ副作用」が生まれやすいという現実があります。

次章では、その落とし穴について掘り下げていきます。

なぜ優秀な人ほど辞めていくのか

評価されない「行動」と「影響力」

優秀な社員ほど、自分の仕事だけでなくチーム全体の成果に貢献する行動を取っています。

たとえば、後輩の指導、問題の先回り対応、部署間の調整など、数字に現れにくい支援的な行動です。

しかし、こうした取り組みは成果主義の枠組みでは可視化されず、評価に反映されにくいのが実情です。

結果として、「やっても評価されない」という無力感が蓄積され、徐々にモチベーションが低下していきます。

表面的には何も変わっていないように見えても、内面ではすでに離職を意識しているケースも珍しくありません。

昇進や処遇が“画一的”で多様な優秀層を拾えていない

成果主義に基づく昇進制度では、「管理職になってはじめて評価される」という構造になっていることが多く見られます。

この仕組みに対して、2つのタイプの優秀な人材が不満を抱えています。

まず、管理職を目指す人にとっては、成果を出しているのに昇進が遅れる、あるいはポストが空いていないという理由で昇進できないことに不満を持ちます。

次に、管理職になりたくないプレイヤー型の人材は、自らの専門性や支援的な貢献が評価されないことに疑問を感じます。

つまり、成果主義が“昇進=評価”という画一的な基準になっていると、多様な貢献を行う人材のやる気を損ねてしまうのです。

成果主義の本末転倒、「やった者負け」構造

さらに問題なのは、優秀な社員に仕事が集中しやすくなる点です。

成果主義では「できる人」により多くの業務や責任が割り振られがちです。

ミスのリカバリー、新人教育、チームの火消し役など、目立たないが重要な仕事を抱え込むことになります。

その結果、「自分ばかりが損をしている」「できない人の尻拭いをしても評価されない」と感じるようになり、疲弊して離職を選ぶケースが出てきます。

これでは、本来の成果主義が持つはずの公平性や合理性が崩れてしまうのです。

「成果だけを見る経営」が引き起こす組織崩壊

優秀な社員が離職すると、ただ一人分の穴が開くだけではありません。

実際には、その人が担っていた「見えない貢献」や「周囲への影響力」が失われ、組織全体のパフォーマンスが下がります。

特に中小企業では、いわゆる「屋台骨」となる36%前後の社員がチームの成果を支えていると言われています。

もしその36%の中核人材が離れてしまえば、残された社員ではカバーしきれず、業務の質やスピードが一気に低下します。

これが連鎖的に発生すると、残った社員の負担がさらに増加し、追加の離職が起こるという「負のスパイラル」が始まります。

結果として、取引先や顧客への対応が後手に回り、信用の低下、売上減少といった経営的打撃へとつながるのです。

優秀な人材を辞めさせないために今できること

行動・貢献も評価する制度設計

数字で測れる成果だけでなく、支援行動や改善提案、問題解決力といった「行動の質」も評価対象に含めることで、優秀な社員の貢献を正しく可視化することができます。

たとえば、360度評価の一部導入や、行動目標に対する自己評価+上司評価を組み合わせることで、形式的ではない定性評価を制度化できます。

これにより、社員は「数字だけでなく、自分の取り組みが見られている」と感じることができ、モチベーションを維持しやすくなります。

また、行動ベースの評価は再現性のある成功パターンを組織内に蓄積する効果もあります。

キャリアの透明性を高める

評価制度とキャリア設計が一体化していないと、優秀な人材は「このまま頑張っても未来が見えない」と感じてしまいます。

そこで重要なのは、キャリアパスの多様性と透明性を確保することです。

たとえば、管理職志向の社員には役職登用を明示し、プレイヤー志向の社員には専門職としての昇給・役割拡張の道を提示する。

さらに、チーム支援や後輩育成に長けた人材には「メンター型人事制度」を設け、貢献度に応じた報酬や表彰を導入することも有効です。

重要なのは、「努力がどう評価につながるのか」を見える形で提示すること。

これができていないと、どれだけ成果を出しても離職を防ぐことは難しくなります。

適切なワークロード配分と支援

優秀な人材ほど「頼られる」ことで業務が集中しやすく、疲弊してしまうリスクが高まります。

そのため、仕事の配分状況を定期的に棚卸しし、特定の個人に負荷が集中していないかを確認する仕組みが必要です。

また、優秀な社員にしかできない業務を洗い出し、教育・マニュアル化を通じて属人化を防ぐ努力も重要です。

これにより、本人の成長支援とチーム全体の安定化を同時に実現できます。

成果主義の再設計が中小企業の競争力を高める

成果主義は決して間違った制度ではありません。

むしろ、成果をきちんと評価するという視点は、中小企業の成長に不可欠です。

しかし、数字だけに偏った制度設計は、かえって優秀な人材を失い、組織力の低下を招く危険性があります。

大切なのは、成果だけでなく「成果が生まれるまでの行動」や「周囲への好影響」も評価軸に加えることです。

社員一人ひとりの努力と影響力を正しく捉える仕組みが整えば、離職を防ぐだけでなく、社内の相互信頼や持続的成長にもつながります。

評価制度はコストではなく、将来への投資です。

企業の競争力は、人材が辞めない仕組みに支えられています。

今こそ、「数字だけを見る経営」から、「人を活かす評価」へと進化させるタイミングなのです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 成果主義は本当に中小企業に向いていないのですか?

成果主義そのものが悪いわけではありません。ただし、制度設計や評価の偏りによって優秀な人材の離職を招きやすくなるため注意が必要です。

Q2. 管理職になりたくない社員の評価はどうすればよいですか?

プレイヤー型やメンター型といった複線型のキャリアパスを用意し、行動やチーム貢献も評価対象に含めましょう。

Q3. 優秀な社員の「行動」をどう評価すればよいですか?

360度評価や、定性評価と定量評価のハイブリッド制度を活用し、支援行動や改善提案などを可視化する仕組みを構築することが有効です。

Q4. 成果を出しても評価されないと感じる社員への対応策は?

評価基準を明文化し、行動や貢献を可視化・定期フィードバックすることで納得感を高めましょう。

Q5. 成果主義に代わる制度はありますか?

完全に代替するのではなく、成果主義に「行動評価」「キャリア多様性」「ワークロード調整」などを加える設計が現実的です。

投稿者プロフィール

山下午壱
山下午壱エグゼクティブコーチ/経営コンサルタント
1968年生まれ。兵庫県出身。
玩具業界(商社)、映画業界を経て人材サービス業界で20年働く。
代表取締役として年商10億円台の人材サービス会社を70億円台まで成長させる。
経営の傍らで多くの経営者と交流し、中小企業の社長の立場でコーチング、コンサルティング実績を積む。
現在はエグゼクティブコーチ/経営コンサルタントとして活動中。