社長はマネージャーを卒業せよ!中小企業が成長するためのリーダーシップの役割

多くの中小企業では、社長が「一番売れる営業マン」であり、同時に現場の判断や人員調整まで担うプレイングマネージャーになっています。
短期的には数字が動きますが、会社の成長はそこで頭打ちになります。
なぜなら、社長の時間が日常業務に奪われ、未来を描く仕事に使えなくなるからです。
本記事では、リーダーとマネージャーの役割の違いを社長視点で整理し、社長がマネージャーを卒業してリーダー役に集中することで、企業が自律的に伸びる道筋を具体的に解説します。
この記事のポイント
- ✅役割分担を明確化
社長=Why/What、管理職=How。重複を排し決裁の渋滞を解消。現場は判断基準で動き、社長はビジョンに専念。 - ✅権限委譲の実装術
任せる範囲と基準を明文化。承認フロー・手順書・週次レビューで属人化を防止し、自律と統制を両立。 - ✅成果を測るKPI
決裁リードタイム、社長の未来投資時間、粗利率・離職率・CSで効果を可視化し、改善サイクルを定着。
なぜ中小企業の成長は社長依存で止まるのか
社長が現場・営業・管理を兼務する弊害
社長が意思決定の全てを握ると、現場は「最後は社長が決める」前提で動くようになります。
社員は判断を保留し、会議は「社長の答え合わせ」になり、スピードが落ちます。
さらに、社長が忙しいほど承認待ちが増え、機会損失が起きます。
社長が動けば動くほど、組織は「社長頼み」で固まり、社長不在では回らない体質が固定化します。
結果として、採用・育成・新規事業などの未来投資に充てる時間がなくなり、売上規模も人員規模も一定のところで伸びにくくなります。
ボトルネック化のメカニズム
社長の仕事量は、売上や社員数の増加にほぼ比例して増えます。
しかし、社長の可処分時間は24時間から増えません。
ここで発生するのがボトルネックです。
例えば、見積り最終承認、採用の最終面接、主要顧客への謝罪や交渉、月次締めの最終チェックなどが全て社長に集中すると、現場は「社長待ちの渋滞」を常態化させます。
これが続くと、優秀な社員ほど裁量不足を感じ、離職や停滞を招きます。
社長の関与度が高いほど一見安心に見えますが、実は成長の天井を自ら下げているのです。
リーダーとマネージャーの違いを社長視点で整理
リーダー=WhyとWhatを示す
リーダーの役割は、目的と方向性を明確にし、組織に意味を与えることです。
なぜこの顧客に価値を届けるのか、3年後にどの市場でどのポジションを取りたいのか、私たちの強みと約束は何か――こうした「Why(存在意義)」と「What(目標・領域)」を定め、言語化し、繰り返し発信します。
指標も「短期の売上高」だけではなく、顧客満足、リピート率、採用受諾率、離職率、ブランド想起など中長期の価値に直結するものを設定します。
マネージャー=Howを設計し、仕組みで回す
マネージャーの役割は、目標を達成するためのプロセスを設計・運用し、再現性を作ることです。
営業なら案件創出から受注までのファネル管理、原価と粗利の基準づくり、受注確度の定義、計画と実績の差異分析などを仕組み化します。
制作や開発なら、要件定義、品質基準、レビュー手順、リリース判定などの標準化が中心になります。
属人化を減らし、教育と引き継ぎが可能な状態にするのが仕事です。
Harvard Business School OnlineのコンテンツライターであるMatt Gavin氏が解説の中で「リーダーは変革を導くビジョンに集中し、マネージャーは安定したプロセスを整備する役割」と解説しており、この視点は中小企業の社長にとって役割の整理を行う際の有益な参考になります。
補完関係としての使い分け
リーダーとマネージャーは優劣ではなく、補完関係です。
リーダーが方向を示さなければ、最適化されたプロセスも行き先を失います。
逆に、プロセスが設計されていなければ、どれだけ高尚なビジョンでも実現できません。
中小企業の現実では社長が両方を兼ねがちですが、成長を目指すなら「社長=リーダー」「管理職=マネージャー」という役割設計に意識的に切り替える必要があります。
社長が担うべきはリーダーの役割
ビジョンを描き方向性を示す
社長の最も重要な役割は、会社の未来を描き、その方向性を明確に示すことです。
これは単なる売上目標や利益計画ではなく、会社の存在意義や顧客に提供する価値を定義することを意味します。
例えば「地域で一番信頼される建築会社になる」「最新技術を活用し業界の課題を解決する」など、組織全体を導く旗印となるものが必要です。
社員は日々の業務で迷ったとき、この旗印を基準に意思決定するため、社長のビジョンが曖昧だと組織全体が迷走します。
Whyを語り続けることの力
社員が動く動機は「なぜこの仕事をするのか」という理由に強く影響を受けます。
社長が繰り返し「なぜ私たちが存在するのか」を語ることで、社員の行動は単なる作業から使命感を持った活動に変わります。
例えば、単に「売上を上げよう」と言われるのと、「私たちの商品はお客様の生活をより快適にする、その結果として売上が上がる」と言われるのでは、社員の納得感と行動の質は大きく変わります。
社長はこの「Why」を語り続ける責任があります。
外部との関係構築もリーダーの仕事
リーダーは内部に向けて方向性を示すだけでなく、外部とのつながりを作る役割も担います。
例えば業界団体や異業種交流会への参加、金融機関との関係構築、将来のパートナー候補との接触などです。
これらは「将来の成長のための種まき」であり、現場の管理業務に追われるマネージャーにはできない領域です。
社長がリーダーとしてこの活動に時間を投資することが、数年後の飛躍につながります。
社長が卒業すべきマネージャーの仕事
日常管理業務に社長が関わる弊害
マネージャーの仕事は本来、管理職が担うべき領域です。
例えばシフト調整、日報確認、案件進捗のチェック、取引先とのスケジュール調整など、日常的に発生する業務は社長がやるべきではありません。
社長が細かく口を出すと、社員は「社長が決めるまで待つ」姿勢になり、自律性を失います。
これは組織全体の判断スピードを下げ、競争環境において致命的な遅れを生みます。
権限委譲と仕組み化が鍵
社長がマネージャー業務を卒業するためには、まず権限委譲を進める必要があります。
意思決定を任せる際には基準を明確にし、判断軸を共有することで安心して任せられます。
さらに、仕組み化によって属人性を減らすことも重要です。
例えば営業では「見積り承認フロー」、製造では「品質チェックリスト」、バックオフィスでは「経費精算ルール」を整備することで、誰が見ても同じ結果になる状態を作れます。
これにより社長の関与度は下がり、組織が仕組みで回るようになります。
手放すことで生まれる時間の価値
社長がマネージャーの仕事を手放すと、時間の使い方が根本から変わります。
日常業務に追われていた時間を、新規事業開発や人材採用、外部との提携交渉など未来に投資できるようになります。
1日に数時間でも確保できれば、それは年間で数百時間単位の経営リソースに変わります。
この差が、中小企業が「現状維持」で終わるか「次の成長ステージ」に進むかを分ける最大の要因になります。
マネージャーを任せることで会社が伸びる
自律的に回る組織への進化
社長がマネージャー業務を手放すと、組織は自律的に動き始めます。
部門ごとに責任者が意思決定できるようになり、現場での対応スピードが格段に向上します。
顧客からの要望やトラブルが発生した際も、いちいち社長に確認する必要がなくなるため、サービス品質の安定やクレーム対応の迅速化につながります。
この「自律性」が会社の競争力を高め、結果的に売上や利益の伸びにつながるのです。
マネージャー育成が未来をつくる
管理業務を現場のマネージャーに任せることで、社員は責任感と成長機会を得ます。
例えば営業部長が数字の進捗管理を任されれば、部門全体を俯瞰して見られるようになり、次世代リーダーとしての経験を積むことができます。
これは「人が育つ組織」をつくる大きな要素です。
実際、委任と企業成長に関する調査でも委任をうまく行うリーダーは売上を平均で33%伸ばし、社員の離職率も低いと報告されています。
優秀なマネージャーが複数育てば、社長がいなくても事業が動く状態になり、将来的には新規事業の立ち上げや他拠点展開も現実的になります。
社長の時間が未来投資に使える
マネージャーを信頼して任せると、社長には余白の時間が生まれます。
この時間を新しい市場調査、商品開発、資金調達、人材採用など未来に投資できれば、企業の成長速度は加速します。
特に中小企業では、未来への投資が「先送り」されがちですが、これはマネージャー業務に社長が埋もれているからです。
社長がリーダーとして未来を考える時間を持てるかどうかが、数年後の業績を決定づけます。
まとめ:社長はマネージャーを卒業して企業を成長させる
中小企業の多くは、社長が現場の営業や管理を兼任することで成り立っています。
しかし、それは短期的には成果を出せても、長期的には成長の壁を生みます。
リーダーとマネージャーの違いを理解し、社長はリーダーとしての役割
- ビジョンを描き
- 方向性を示し
- 未来に投資する仕事
に集中すべきです。
マネージャー業務は仕組み化と権限委譲によって管理職に任せ、組織を自律的に回す体制を整えることが必要です。
こうして初めて、社長不在でも成長し続ける企業が実現します。
結論として、社長がマネージャーを卒業することは、単なる業務効率化ではなく、会社を次のステージへ導くための最も重要な経営戦略なのです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 社長がマネージャー業務を手放すと現場が混乱しませんか?
混乱を防ぐには、任せる範囲と判断基準を明文化することが重要です。意思決定のレベル(例:金額・リスク閾値)、承認フロー、報告頻度(例:日次・週次)を先に決め、最初の1~2か月は週次レビューで軌道修正します。KPIと例外ルールをセットにすれば、現場は自律的に動き、社長は安心して任せられます。
Q2. まず何から手放すべきですか?優先順位を教えてください。
①社長待ちで遅延が起きやすい承認(見積・割引・仕入)②属人化しやすい調整業務(シフト・スケジュール)③価値が低い定型チェック(日報・経費の形式確認)から着手します。各業務は手順書化→基準の数値化→権限移譲→レビューの順で移管するとスムーズです。
Q3. リーダーとマネージャーの違いを一言で言うと?
リーダーは「Why/What(目的・方向)」を示し、マネージャーは「How(やり方)」を設計します。前者は未来を語り人を動かし、後者は仕組みで成果を再現します。どちらが偉いではなく補完関係であり、社長はリーダー役に集中するのが成長の近道です。
Q4. 権限委譲で失敗しがちな点と対策は?
「丸投げ」「権限だけ渡して責任や基準を渡さない」「測定指標が曖昧」が典型です。対策はRACIで役割を明確化、KPIと判断基準の定義、週1のレビューで事実と学びを共有、例外の報告ラインを一本化することです。これで統制と自律を両立できます。
Q5. 成果はどう測定しますか?おすすめKPIは?
経営インパクトを可視化するため、①決裁リードタイム(短縮目標)②社長の未来投資時間(採用・新規事業・外部連携)③営業粗利率・受注率④離職率⑤主要顧客の満足度(NPS等)を設定します。月次レビューで変化をトラッキングし、改善サイクルを回します。
投稿者プロフィール

- エグゼクティブコーチ/経営コンサルタント
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1968年生まれ。兵庫県出身。
玩具業界(商社)、映画業界を経て人材サービス業界で20年働く。
代表取締役として年商10億円台の人材サービス会社を70億円台まで成長させる。
経営の傍らで多くの経営者と交流し、中小企業の社長の立場でコーチング、コンサルティング実績を積む。
現在はエグゼクティブコーチ/経営コンサルタントとして活動中。