
中小・ベンチャー企業の社長から多く寄せられる悩みのひとつが「部下が動かない」というもの。
私自身も経営者支援の現場で同じ悩みを何度も耳にしています。
この問題は単に社員の能力不足や意欲の欠如だと片付けられがちですが、実際にはそうではありません。
部下が動かない背景には、社長自身の振る舞いや言動のクセが大きく影響していることが多いのです。
この記事では、部下が動かない本当の理由について解説します。
この記事のポイント
- ✅部下が動かない理由
部下の能力ではなく社長の振る舞い、言動が原因 - ✅優秀さが妨げに
社長の高速思考が部下の迷いを生む - ✅動ける指示設計
目的・期限・行動の三点伝達で部下が動く
第1章:部下が動かないのは“能力”の問題ではない
私が支援してきた中小・ベンチャー企業の多くでは、当たり前ですが社長が最も優秀な人材であるという共通点があります。
経営判断の精度、情報処理のスピード、方針の組み立てなど、どれを取っても社内で社長以上のレベルにいる人はそう多くありません。
そのため、社長は無意識のうちに「自分にできるのだから部下にもできるはずだ」と考えがちです。
しかし実際には、社長と部下では処理速度も視野の広さも異なります。
私はこのギャップが問題を生む最大の原因だと感じています。
部下が動かないのは能力ではなく、理解できるレベルまで情報が分解されていないことが多いのです。
第2章:優秀な社長ほど陥る“振る舞いと言動のクセ”とは?
抽象的な指示を出してしまうクセ
社長が優秀であればあるほど、頭の中で物事を高速に組み立て、抽象度の高い言葉で方針を伝えてしまいます。
私の体験では、「もっと考えて行動しよう」「臨機応変にやってほしい」といった言い方が典型例です。
しかし、部下は社長ほど前提情報を持っていません。
このため、抽象的な指示では何をすれば良いのか具体的に判断できず、動けなくなるのです。
判断が速すぎるクセ
優秀な社長ほど、決断が速い傾向があります。
これは経営において強みですが、部下にとってはプレッシャーになることがあります。
社長は一瞬で判断を下せるのに対し、部下は情報が揃わなければ判断できません。
私はこの“判断速度の差”が、部下の行動を止める要因になる場面を何度も見てきました。
部下は迷いが生まれ、社長から見れば「動かない社員」に映ってしまうのです。
改善を即要求するクセ
優秀な社長ほど、問題点を瞬時に認識し「もっと良くできるはずだ」と考えます。
しかし部下は現状を把握するだけで精一杯のことが多く、改善のステップまでイメージできないことがあります。
私自身もこのギャップを見てきました。社長は未来を見て話すのに対し、部下は目の前の作業で手一杯なのです。
第3章:社長のクセが組織全体の“行動基準”になる
私がこれまで支援してきた企業では、社長の振る舞いがそのまま会社の行動基準になっている場面を数え切れないほど見てきました。
社長が曖昧に話せば部下も曖昧に判断し、社長が勢いで物事を進めれば、現場も勢いで動こうとします。
これは能力の問題ではなく、社内の“模倣の構造”です。
人は権限や影響力の強い人間の行動を無意識に真似る傾向があり、この点は心理学者Albert Banduraが提唱した社会的学習理論(Social Learning Theory)でも説明されています。
特に優秀な社長ほど、自分では意識していない“思考のショートカット”があります。
問題の本質を一瞬で見抜き、短い言葉で判断を下すため、周囲がその思考過程を理解できず、結果として社員が動けなくなることがあります。
私はこうした場面を何度も目にしてきました。
一方で、社長自身が「自分のクセ」を自覚し、丁寧な伝え方に変えた瞬間、組織が見違えるように動き始める企業もあります。
振る舞いが変われば会社の空気が変わる。
この変化を実際に経験すると、社長自身も「行動基準は自分から始まるのだ」と強く実感されます。
第4章:部下が動けるようになる“具体的な伝え方”の設計
指示は「目的(何を)・期限(いつ)・具体的行動(どの手順で)」の3点セットで伝える
私が現場で徹底しているのは、指示を必ず「目的」「期限」「具体的行動」の3点セットで伝えることです。
多くの社長は目的だけを語り、具体的な行動は部下に委ねてしまいます。
しかし、部下は目的から行動への転換が苦手です。
だからこそ「何を・いつまでに・どの手順で」が揃うだけで、動ける部下が急増します。
社長の“思考の前提”を共有する
部下が動けない理由のひとつに、社長の頭の中にある「判断基準」が共有されていないことがあります。
私の経験上、社長は言葉にしなくても分かると思っていても、部下はその基準を知らないため迷いが生まれます。
「なぜこの順番なのか」「なぜ急ぐのか」という前提を共有すると、部下の判断は驚くほど速くなります。
抽象語を“禁止ワード化”する
支援の中でよく行う取り組みが「抽象語の禁止」です。
「しっかり」「もっと」「臨機応変に」などの曖昧な言葉は、行動に変換できません。
私はクライアントと一緒に“使わない言葉リスト”を作ることがありますが、これだけで社内の会話が一気に具体化し、部下の動きが目に見えて変わります。
こうした伝え方の設計は、社長の負担を増やすものではありません。
むしろ最初に丁寧に伝えることで、後の軌道修正や再指示が減り、最終的には社長自身の時間が増えます。
私は多くの社長がこの変化を体感し、「もっと早くやれば良かった」と口を揃えておっしゃるのを見てきました。
第5章:部下は社長とは違う役割で動く
私が経営者支援をする中で強く感じてきたのは、部下が社長と同じ視点で動く必要はないということです。
社長は「意思決定・戦略・最終責任」を担う一方、部下は「再現性・継続・現場改善」を役割としています。
立場と役割が違えば、同じ動き方を求めること自体が無理なのです。
実際、優秀な社長ほど部下に自分と同じ判断力やスピードを期待しがちですが、それは役割構造を誤解した結果だと私は考えています。
部下は視野も情報量も異なり、社長と同じように動けるはずがありません。
むしろ、社長が行動基準を示し、部下がそれを再現・実行することで組織としての成果が生まれます。
私は多くの企業で、社長が「役割の違い」を理解した瞬間に、部下への要求が適切になり、組織の動きが大幅に改善するケースを見てきました。
部下を変えるのではなく、役割に合わせた設計に変えるだけで会社は十分前に進むのです。
第6章:まとめ-社長の振る舞いと言動のクセ変えれば組織の動き
部下が動かない問題は、部下の能力や意欲の欠如ではなく、社長自身の振る舞いや言動のクセが原因であることが多いと私は感じています。
優秀な社長ほど無意識のショートカット思考を持ち、抽象的な指示や高速な判断で部下を戸惑わせてしまうのです。
しかし、指示の出し方や前提共有を工夫し、役割の違いを理解するだけで、部下は驚くほど動き始めます。
社長自身が自分のクセに気づき、行動基準を整えることが、組織を前に進める最も確実な方法だと私は確信しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 部下が動かないのは本人の能力不足ですか?
能力不足ではなく、社長の指示の出し方や前提共有の不足が原因である場合が多いです。
Q2. 抽象的な指示を改善するにはどうすれば良いですか?
目的・期限・具体的行動の3点をセットで伝えることで、部下は動きやすくなります。
Q3. 社長の振る舞いが部下の行動に影響するのはなぜですか?
人は権限のある人物の行動を模倣するため、社長の言動が組織の行動基準になりやすいからです。
Q4. 優秀な社長ほど部下が動かないのは本当ですか?
はい。判断や思考が高度であるため、部下が理解できず行動につなげられないケースが多くあります。
Q5. すぐに改善できるポイントはどこですか?
指示の分解、前提の共有、抽象語の禁止の3点から取り組むと、最も早く効果が現れます。



