エンゲージメントが低いマネージャーが静かな退職を招く理由

「マネージャーのやる気が感じられない」「部下が自発的に動かない」。そんな悩みを抱える社長に共通するのは、マネージャーとの関わり方が「指示型」に偏っていることです。
実は、静かな退職(Quiet Quitting)と呼ばれる現象の背景には、現場を預かるマネージャー自身のエンゲージメント低下が関係しています。そして、そのマネージャーを支える立場にあるのが社長です。
本記事では、Gallupの調査を参考に、マネージャーのエンゲージメントと静かな退職の関係性を明らかにしながら、社長自身がまずコーチング的姿勢を持つことの重要性について解説します。
この記事のポイント
- ✅ 静かな退職の原因はマネージャーのエンゲージメント低下
部下のやる気の低下は、マネージャーの疲れや無関心が引き金。 - ✅ 社長こそがマネージャーの“壁打ち相手”になるべき
マネージャーは孤立しがち。社長が対話の質を変えることが支援の第一歩。 - ✅ マネージャー育成の前に、社長がコーチングを体験
エンゲージメントは上から伝わります。まずは社長が整うことが重要。
静かな退職とは何か?
「静かな退職(Quiet Quitting)」とは、従業員が会社を辞めるわけではないものの、やる気を失い、与えられた最低限の業務しかこなさなくなる状態を指します。目立った問題行動はなく、外からは分かりにくいのが特徴です。
表面的には勤務態度も真面目で、遅刻や欠勤もありませんが、自発的な改善提案やチームへの貢献、学び直しなどの積極的行動が減っていきます。いわば「心が職場から離れている」状態です。
この静かな退職は、大企業だけでなく中小・ベンチャー企業においても増えています。特に現場での人間関係が密な職場では、一人の無気力がチーム全体の空気を悪くしてしまうリスクがあります。
社員の退職よりも発見が難しく、長期的にはパフォーマンス低下や組織の活力喪失に直結するため、見過ごせない問題です。
マネージャーのエンゲージメント低下が招く“静かな退職”
静かな退職が広がる背景には、部下だけでなく「マネージャー自身のエンゲージメント低下」が深く関係しています。Gallup社の2024年調査によると、世界のマネージャー層のエンゲージメントは前年よりも3ポイント低下し、特に35歳未満の若手マネージャーと女性マネージャーの数値が大きく下がっています。
この層は現場での指揮を取りながら、経営陣と部下の板挟みに遭う立場です。責任は重いものの、裁量が少なく、孤独を感じやすいのが特徴です。加えて、成果が見えづらい育成業務や人間関係のストレスも蓄積しやすく、燃え尽き症候群のリスクも高いと言われています。
Gallupは「上司の関心のなさが、部下のモチベーション低下を引き起こす」とも指摘しています。つまり、エンゲージメントが下がったマネージャーの下では、部下もやる気を失ってしまうのです。
社長が現場の状況を“数字”でしか把握していない場合、このような兆候は見逃されがちです。静かな退職は、マネージャーという「組織の心臓」が弱っているサインであることに、まず気づく必要があります。
エンゲージメントが低いマネージャーに見られる特徴
マネージャーのエンゲージメントが下がると、いくつかの共通した兆候が現れます。
まず「孤立感」です。社長や上層部との距離があり、相談できる相手がいない状態では、判断を一人で抱え込み、次第に疲弊していきます。
次に「責任は重いが裁量がない」状況。目標達成の責任は課せられているのに、人員配置や予算、働き方に関する決定権がない場合、やらされ感が強くなります。
また、「努力が報われない」という感覚も大きな要因です。部下のために動いても評価されず、結果のみで判断される環境では、モチベーションは維持できません。
こうしたマネージャーは、組織の意思伝達が滞る「詰まり」の原因となり、結果的にチーム全体の機能不全につながっていきます。静かな退職の予兆は、こうした現場の小さな不調から始まっています。
組織全体への悪影響:静かな退職は伝染する
静かな退職は一人の問題にとどまりません。やる気を失ったマネージャーの態度は、部下に伝染します。言葉には出さずとも、表情や対応、指示のトーンがチームの空気に影響を与えます。
その結果、士気の低下、離職予備軍の増加、人材育成の停滞といった問題が連鎖的に起こります。「一生懸命教えているつもり」「チャンスは与えている」という社長や上司の認識も、現場では“伝わっていない”ことが多いのです。
これは、言葉だけではなく「どう関わるか」「どう聴くか」に問題があるケースが大半です。社員は“扱われ方”に敏感で、マネージャーが疲弊していると、その雰囲気はすぐに伝わります。
こうした状況が続けば、業績以前に「職場の熱量」が失われます。売上や目標数値は、職場にエネルギーがあって初めて実現できるものです。静かな退職は、熱量の消失という“目に見えないコスト”を伴います。
社長こそ“コーチ”になるべき理由
マネージャーのやる気を引き出したいと考えるなら、社長こそが“コーチ的な存在”になる必要があります。ここで言うコーチとは、「答えを教える人」ではなく、「問いを投げかけ、考えさせる人」です。
多くのマネージャーは、日々の業務に追われながらも、「このやり方でいいのか」「誰にも相談できない」と不安を抱えています。にもかかわらず、その声に耳を傾けてもらえる機会は極めて少ないのが現状です。
社長が指示を出すだけの存在になっていると、マネージャーは“聞いてもらえない”と感じ、意見や改善提案を口にしなくなります。その結果、マネージャーの情熱は失われ、静かな退職の起点となってしまうのです。
重要なのは、社長自身が「どれだけ問いを投げかけ、話を聴いているか」。マネージャーの火をつける前に、まずは火を消していないかを振り返るべきです。
定期的な1on1の場や日常的な対話の中で、社長がコーチング的な姿勢を持てば、マネージャーは安心して話すことができます。その安心感が、自信とエネルギーを回復させ、チーム全体の再活性化にもつながっていきます。
社長自身も“コーチング”を受けるべき3つの理由
社長が日々の経営判断で迷ったとき、誰かに話を聴いてもらえていますか?「すべて自分で決めなければならない」「弱みは見せられない」という思い込みが、孤独な経営を加速させているかもしれません。
コーチングは、単なるアドバイスではありません。社長自身が思考を言語化し、自分の中にある本音や葛藤に気づくための“壁打ちの場”です。定期的にその時間を持つことで、経営判断に自信と一貫性が生まれます。
また、社長が整えば、マネージャーも整います。エンゲージメントは上から伝染するものです。社長が曖昧で揺れていると、その不安はマネージャーに伝わり、組織全体の熱量が下がっていきます。
コーチングを通じて、社長自身が「自分の軸」を確認し続けることは、マネジメントの根幹を安定させることにもつながります。マネージャーにコーチングを導入したいと考えるのであれば、まずは社長自身がその効果を体験すべきです。
組織に変化をもたらす第一歩は、社長が“話す場”を持つことから始まります。
解決策:まず“話を聴く”ことから始める
多くの社長は「マネージャーの相談に乗っているつもり」です。しかし、話を“聞く”ことと“聴く”ことは別物です。聴く技術がなければ、エンゲージメントは本質的には回復しません。
特に、マネージャーが本音を話せる安全な場を設けることが重要です。日常業務の合間に形式的な1on1を入れても、信頼関係がなければ建設的な対話にはなりません。
そこで有効なのが、外部のコーチを活用することです。第三者であるからこそ話せることがあり、役割分担や客観性の確保、定期的な実施も可能になります。
自社内で全てを内製しようとすると、感情的な距離が取りづらく、かえって本音が引き出せないこともあります。だからこそ、“まずは聴く”こと、そして“プロの支援を使う”という発想が、組織改善の現実的な第一歩になります。
まとめ:エンゲージメントを高めるためのコーチング
静かな退職は、単なる若手社員の問題ではありません。その本質は、マネージャーが無関心になり、孤立している状態にあります。そして、そのマネージャーを支援できる立場にいるのは、他でもない社長です。
社長がまずコーチングを体験し、自分自身を整えることで、マネージャーのエンゲージメントも変わり始めます。上から整うことで、組織全体の熱量が回復し、生産性と活気のある職場が戻ってきます。
組織を動かす最初の一歩は、社長が“聴く力”を取り戻すことから始まります。
よくある質問(FAQ)
Q1. コーチングとは、アドバイスをくれるサービスですか?
A1. いいえ。コーチングは「答えを教える」のではなく、あなた自身の考えを整理し、意思決定や行動を支援する“対話型のサポート”です。
Q2. 社長がコーチングを受けると、何が変わるのでしょうか?
A2. 経営判断の迷いや感情のもつれが整理され、自分自身に余裕が生まれます。それがそのまま、マネージャーへの関わり方にも好影響を与えます。
Q3. 外部コーチを使うメリットは何ですか?
A3. 社内では話しづらい悩みや葛藤を、利害関係のない第三者に安心して相談できること。定期的な対話がペースメーカーにもなります。
Q4. 自社のマネージャーにもコーチングを受けさせたいのですが、順番はありますか?
A4. まずは社長が受けてみることをおすすめします。効果を体感したうえで展開すれば、導入もスムーズに進みます。
Q5. 初回から継続契約をしないといけませんか?
A5. 多くのサービスでは、初回体験セッションや単発相談も可能です。まずは気軽に試してみて、自分に合うかを確かめるところから始めましょう。
投稿者プロフィール

- エグゼクティブコーチ/経営コンサルタント
-
1968年生まれ。兵庫県出身。
玩具業界(商社)、映画業界を経て人材サービス業界で20年働く。
代表取締役として年商10億円台の人材サービス会社を70億円台まで成長させる。
経営の傍らで多くの経営者と交流し、中小企業の社長の立場でコーチング、コンサルティング実績を積む。
現在はエグゼクティブコーチ/経営コンサルタントとして活動中。
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