
経営の現場では、一瞬の感情が意思決定の質とスピードを左右します。
怒りや不安が混ざると、投資判断や採用、顧客対応の優先順位がぶれ、収益機会の逸失や組織の摩擦を招きます。
逆に、感情を適切に扱えれば、判断の一貫性と説明責任が高まり、社員の納得度と実行力が揃います。
本記事では、海外で注目されるEQ(感情知性)の枠組みを紹介しつつ、経営者が自らの感情を意識的に扱う具体手順を提案します。
この記事のポイント
- ✅理性で基準を先置き
発言前に目的・基準・次の一手を明確化。感情反応を防ぎ意思決定を安定。 - ✅EQで感情を活用
怒りは主張、不安は準備に変換。感情を推進力にして実行力を高める。 - ✅二段階モデルで浸透
「理性的制御→EQ活用」を型にして会議と評価に適用。再現性ある成果へ。
第1章 経営者に「感情コントロール」が必要な理由
会社全体を左右する「一言」の重さ
経営者の言葉は、肩書と情報非対称性(※経営層と現場で持っている情報の量や内容が異なること)ゆえに現場で過大解釈されます。
会議での短い一言が、部門の優先順位やスケジュール、品質基準に連鎖的な影響を与えます。
たとえば、焦りの色を見せれば短期指標への過度な注力が誘発され、品質低下や離職につながることがあります。
逆に、根拠に基づく落ち着いたメッセージは、部門間の足並みをそろえ、実行確度とスループットを高めます。
感情は消すのではなく「制御」して使う
怒りや不安、興奮や期待は、意思決定を誤らせるリスクである一方、正しく扱えば推進力です。
重要なのは、感情を否定することではなく、感情が生じた事実を自覚し、反応を選択することです。
瞬発的な叱責や場当たり的な方針転換ではなく、事実確認→原因仮説→対策案→役割と期日の明確化、という手順に落とし込むことで、感情の揺れを行動の一貫性へ変換できます。
- 数字と事実の確認
- 仮説の言語化
- 意思決定基準の提示
- 期日の明確化。
この4点を徹底するだけで、同じ出来事でもアウトプットの質は大きく変わります。
さらに、経営者自身のコンディション管理も欠かせません。
睡眠不足や情報過多、意思決定疲れは感情の振れ幅を拡大します。
- 決裁前に一次情報と反証資料を並べて短時間で俯瞰する
- 重要会議の前に5分の呼吸法で自律神経を整える
- 結論を即断せず「翌朝までの検討」を宣言して一次感情の沈静化を待つ、
といった小さな工夫が、判断の質を安定させます。
第2章 EQ(感情知性)とは何か?
EQは、感情を正しく認識し、適切に表現し、状況に応じて使い分ける総合力です。
経営においては、
- 自己認識(自分の感情の気づき)
- 自己制御(反応の選択)
- 共感(相手の感情の把握)
- 関係管理(建設的な対話)
の4領域が要になります。
数値やKPIだけでは説明できない現場の温度感を読み取り、決断の品質を高めるための実践スキルとして機能します。
特に不確実性が高い局面では、同じ情報でも受け手の感情状態により解釈が分かれます。
経営者がEQを備えていれば、誤読や早合点を減らし、意思決定のスピードと納得感を同時に高められます。
具体例として、
- 会議前に相手の懸念を質問で先取りする
- 否定ではなく事実と期待値でフィードバックする
- 結論に至る理由を言語化し説明責任を果たす、
などが挙げられます。
結果として、顧客接点でのクレーム減少、採用面接でのミスマッチ低下、マネジメント層の離職抑制といった副次効果も期待できます。
第3章 EQの中核:感情を理解し、反応を選ぶ力
感情を否定せず、扱い方を選ぶ力
EQ(感情知性)の本質は、「感情を理解し、反応を選ぶ力」にあります。
私たちは怒りや不安、焦りなどを完全に消すことはできませんが、その感情に“支配されるか”“使いこなすか”によって結果はまったく異なります。
大学教授のベンジャミン・レイカーはEQに関する記事で「感情の運転席に自分が座る」という表現が用いられており、経営者自身がハンドルを握ることの重要性が強調されています。
怒りや不安を「情報」に変える
たとえば、社員の報告に苛立ちを覚えた瞬間、「なぜ腹が立ったのか」を自分に問い直す。
多くの場合、その怒りの根底には「期待が裏切られた」「基準が伝わっていない」といった構造的原因が隠れています。
この認識ができれば、怒りを抑えるのではなく、建設的なフィードバックに変えることができます。
感情を推進力に変える経営者へ
EQの高い経営者は、感情を早めに自覚し、行動の選択肢を広げます。
怒りを「主張のエネルギー」に、不安を「準備の動機」に、焦りを「優先順位の見直し」に変換する。
感情を“敵”ではなく“情報”として扱うことで、意思決定の質とスピードは格段に上がります。
経営者にとってEQとは、冷静さと柔軟さを同時に発揮するための思考の基盤なのです。
第4章 経営者が感情をコントロールする“理性的ステージ”
第一段階:感情を行動に持ち込まない理性的制御
私の考えでは、感情をコントロールする力には段階があります。
第一段階は、感情を行動に持ち込まない「理性的制御」です。
怒りや不安を感じても、それを即座に言動に反映させず、まずは事実を整理し、どの情報が確かで、どの判断が妥当かを冷静に考える段階です。
このステージでは、ルールや仕組み、責任の線引きを明確にし、感情に左右されない判断を徹底することが重要です。
第二段階:EQ的「感情活用」への発展
次の段階は、EQ的な「感情活用」のステージです。
感情を抑え込むのではなく、その根底にある意図や価値観を理解し、適切に使いこなす。
たとえば、怒りを「正義感や理想の強さ」として捉え、不安を「準備の動機」として活かす。
理性で整えた上で感情をエネルギー源に変えることで、リーダーとしての影響力が格段に高まると私は考えています。
理性と感情を統合したリーダーシップへ
この二段階を踏むことで、経営者は「冷静さと共感力を兼ね備えたリーダー」へと成長できます。
感情を抑えるだけではチームはついてこず、感情に流されても組織は揺らぐ。
両者を統合する思考と態度こそが、長期的に安定した経営を実現する鍵だと私は確信しています。
第5章 まとめ:感情を制する者が組織を制す
ビジネスを成功に導く「感情コントロール」
経営者にとって感情は避けられないものです。
しかし、その扱い方次第でビジネスの成果は大きく変わります。
怒りや焦りに支配されるのではなく、理性を軸に反応を選び、感情を推進力として使うこと。
これが、ビジネスを成功に導く経営者に共通する「感情コントロール術」です。
私の考える「二段階モデル」
私の考えでは、感情のコントロールには段階があります。
まずは感情を行動に持ち込まない「理性的ステージ」。
この段階では、ルールや事実を基準に判断し、感情的反応を排除することが重要です。
その上で次に、EQの考え方を応用し、感情を理解し、活用する「発展的ステージ」に進むべきだと考えています。
EQの理論は、感情を否定せず、どう反応を選ぶかに焦点を当てています。
これは私の考える“理性の上に感情を乗せる経営”と非常に相性が良いアプローチです。
感情を制する者が、ビジネスを成功に導く
私は多くの経営者支援の現場で、感情を抑え込み過ぎたリーダーが人間味を失い、逆に感情的すぎるリーダーが組織を混乱させる姿を見てきました。
理性で整え、EQで柔軟に活かす。二段階で感情を扱うリーダーこそ、信頼と成果を両立し、ビジネスを成功に導くことができると確信しています。
感情を制する者が、最終的に人と組織、そして事業を動かすのです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 感情を「抑える」ことと「コントロール」は何が違いますか?
抑えるは感じないふり、コントロールは感じたうえで反応を選ぶことです。記事では、まず理性で事実を整理し、その後EQで感情を活用する二段階モデルを推奨しています。
Q2. EQとIQのどちらが経営には重要ですか?
どちらも重要ですが、変化や人間関係が絡む局面ではEQが差を生みます。IQでロジックを組み、EQで伝え、動かし、納得を得るのが実務的に最強です。
Q3. 忙しい経営者が今日からできる最小アクションは?
会議・面談の直前に「目的・基準・次の一手」を30秒で書き出し、発言はそれに沿って行う。感情に反応せず、先に基準を示すだけで効果が出ます。
Q4. 怒りがこみ上げた場面での具体的対処は?
即時の評価を避け、「事実確認→不足情報→次アクション」を宣言して一旦クールダウン。後で基準と期日を言語化して共有するのが再発防止に有効です。
Q5. 組織全体に広げるにはどう進めればよいですか?
まず経営会議で「意思決定の基準フォーマット」を統一し、報告・評価・フィードバックをその型で運用。次に管理職研修でEQの基本(把握・選択)を導入します。
投稿者プロフィール

- エグゼクティブコーチ/経営コンサルタント
-
1968年生まれ。兵庫県出身。
玩具業界(商社)、映画業界を経て人材サービス業界で20年働く。
代表取締役として年商10億円台の人材サービス会社を70億円台まで成長させる。
経営の傍らで多くの経営者と交流し、中小企業の社長の立場でコーチング、コンサルティング実績を積む。
現在はエグゼクティブコーチ/経営コンサルタントとして活動中。
最新の投稿
- 2025年11月5日社長・経営者の悩みビジネスを成功に導く経営者の感情コントロール術:EQ(感情知性)
- 2025年10月29日社長・経営者の悩み優秀な経営者の思考法:計画より重視するものとは?
- 2025年10月22日事業継承事業承継を成功させるために:社長が「二代目を育てる」3つの仕組み
- 2025年10月15日経営者思考AIは社長か参謀か?:AIと経営者の向き合い方



