
経営判断を誤る経営者というと、経験が浅い人や知識が足りない人を想像するかもしれません。
しかし、私がこれまで関わってきた現場では、むしろ優秀で行動力のある経営者ほど判断を外してしまう場面が少なくありませんでした。
数字も見ているし、行動もしている。それでも結果が出ない。
その原因は能力ではなく、見ている前提が少しずれていることにあります。
私自身、成果が出ない企業ほど、目の前の現象に対して正しく対応しているのに結果が伴わないという違和感を何度も感じてきました。
本記事では、前提と現象のズレという視点から、その構造を整理していきます。
- ✅経営判断を誤る原因は能力不足ではない
- ✅本質は前提と現象のズレにある
- ✅経営者に必要なのは解決力より問い直す力
なぜ優秀な経営者ほど判断を誤るのか
問題を解く力が高いほどズレを拡大させる
優秀な経営者は、目の前の問題に対して素早く解決策を出すことができます。
数字を見て原因を仮説立てし、すぐに行動に移す。このスピードと実行力は本来大きな強みです。
しかし、その前提がずれていた場合、実行力の高さが逆に問題を深くしてしまいます。
たとえば売上が落ちたとき、「営業量が足りない」「広告が弱い」と判断すれば、行動量を増やす方向に進みます。
一見すると正しい対応に見えますし、実際に活動量も増えるため手応えも感じやすくなります。
しかし本当の問題が商品や顧客のズレにある場合、いくら実行しても結果は変わりません。
むしろ、努力している分だけ「正しいことをやっているはずだ」という確信が強くなり、軌道修正が遅れてしまいます。
私自身、動きが速く優秀な経営者ほど、目の前の現象への対応を正解として積み上げてしまい、結果として遠回りしてしまうケースを何度も見てきました。
問題は実行力ではなく、どこを問題として捉えるかという出発点にあります。
現場で起きている「間違った問題解決」
現場でよくあるのは、売上が落ちたときに「集客の問題だ」と判断してしまうケースです。
すると広告費を増やし、営業件数を増やし、発信量も増やしていきます。
数字としての活動量は増えるため、やっている感は強くなりますし、社内でも前向きな動きとして評価されやすくなります。
しかし、商品やサービス自体が顧客のニーズとずれていた場合、いくら施策を増やしても大きな改善にはつながりません。
実際に私が見てきた企業でも、集客施策を強化しても成約率が上がらず、さらに施策を増やすというループに入ってしまったケースがありました。
本来見るべきは「なぜ選ばれていないのか」という前提部分ですが、現象である「集客数」に意識が集中すると、その問いにたどり着けません。
結果として、努力の方向は間違っていないように見えるのに、成果だけが出ない状態が続いてしまいます。
これは特別なケースではなく、多くの企業で起きている構造です。
前提と現象のズレとは何か
目の前の現象ではなく前提を見るという視点
ここで重要になるのが「前提」と「現象」の違いです。
現象とは、売上が落ちた、離職が増えた、問い合わせが減ったといった目に見える結果です。
一方で前提とは、その結果を生み出している構造や条件、つまり「なぜそれが起きているのか」という土台の部分です。
多くの経営判断は、この現象をもとに行われます。
しかし、現象はあくまで結果であり、そこに直接手を打っても本質は変わらないことが少なくありません。
私自身、売上低下の原因を営業力の問題として捉え、営業体制を強化した企業を見てきました。
しかし実際には、顧客層の変化に対して商品が合わなくなっていたことが原因でした。
この場合、本来見直すべきは営業ではなく、提供している価値やターゲットです。
現象に対して正しく対応しているように見えても、前提がずれていれば結果は変わりません。
前提を見誤ると、正しい行動が間違いになる
さらに、現象は短期的な変化に影響されやすく、ノイズも多く含まれます。
一時的な数字の変動に対して過剰に反応してしまうと、本来は維持すべき戦略まで変えてしまうことがあります。
だからこそ、目の前の数字だけで判断するのではなく、「この結果はどの前提から生まれているのか」という視点で捉えることが重要です。
前提を疑うことで、初めて判断の精度が上がります。
なぜ人は前提を疑わず正当化してしまうのか
正当化が判断を固定化させる構造
ではなぜ、前提のズレに気づけないのでしょうか。
その一つは、人は自分の判断を正しいものとして維持しようとする傾向があるからです。
これは心理学でいう「認知的不協和」と呼ばれる現象で、自分の判断と現実がズレたときに、その違和感を解消するために判断の方を正当化してしまうためです。
特に優秀な経営者ほど、論理的に説明する力が高く、自分の判断を筋の通った形で整理できます。
その結果、多少の違和感があっても「今は過渡期だ」「まだやり切れていないだけだ」と解釈し、方向性そのものを見直さなくなります。
私が見てきた経営者の中にも、明らかに結果が伴っていないにもかかわらず、「やっていることは間違っていない」と考え続けてしまうケースがありました。
実行量もあり、努力もしているため、周囲も否定しづらくなります。
こうして、正当化が積み重なることで前提が固定され、修正の機会が失われていきます。
正当化が判断を固定化させる構造
さらに厄介なのは、この正当化が周囲にも共有されてしまう点です。論理的に説明されると、組織全体が同じ前提で動くようになります。
その結果、誰も疑問を持たず、同じ方向に努力を重ねてしまいます。問題は能力の有無ではなく、自分の前提をどこまで疑えるかにあります。
経営判断を誤らないための2つの問い
実行ではなく「前提」に立ち返るための思考法
では、こうした判断のズレを防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。
私が現場で意識しているのは、答えを急ぐのではなく、判断の前に一度立ち止まり「問い」を立てることです。
多くの場合、経営判断はスピードを優先しすぎるあまり、前提を確認せずに進んでしまいます。
しかし、ここで一度問いを挟むだけで、見えている景色が大きく変わります。
1つ目の問い「それは今、顧客が本当に困っていることか」
経営者は自分の経験や成功体験から課題を捉えがちですが、実際の顧客が感じている問題とはズレていることも少なくありません。
私自身、課題だと思っていたことが、顧客にとっては優先度が低かったという経験が何度もありました。
この問いを挟むことで、問題そのものの前提を見直すことができます。
2つ目の問い「今の課題は、戦略に原因があるのか、それとも実行の精度の問題なのか」
戦略に原因がある場合、そもそも方向性がずれているため、いくら行動量を増やしても結果は大きく変わりません。
一方で、戦略が正しい場合は、実行の質や量を高めることで成果につながっていきます。
私自身、成果が出ないときに実行量を増やすことで解決しようとした経験があります。
しかし振り返ると、問題はやり方ではなく、誰に何を提供するかという前提にありました。
この問いを持つことで、「もっとやるべきか」ではなく「見直すべきか」という視点に立ち返ることができます。
結果として、無駄な努力を減らし、判断の精度を高めることにつながります。
まとめ:優秀さが経営判断を狂わせる構造
なぜ優秀さが判断を誤わせるのか
ここまで見てきた通り、経営判断を誤る原因は能力不足ではありません。
むしろ、優秀であること自体が判断を狂わせる要因になることがあります。
問題を解く力が高いほど、前提のズレに気づかないまま実行を積み重ねてしまうからです。
経営判断の精度を高めるために必要な視点
私がこれまで関わってきた現場でも、成果が出ないときに「もっとやるべきだ」と考え、実行を強化するケースが多く見られました。
しかし、その前に確認すべきは「それは本当に顧客にとって重要な問題なのか」という点です。
ここがずれていると、どれだけ正しい判断をしても、そもそも成果にはつながりません。
そのうえで重要になるのが、「その課題は戦略に原因があるのか、それとも実行の精度の問題なのか」を見極めることです。
この2つを切り分けることで、初めて適切な打ち手が見えてきます。
戦略がずれていれば見直しが必要であり、実行の問題であれば改善によって成果が出ます。
この視点が抜けると、努力の方向は正しいように見えても、結果だけが伴わない状態が続いてしまいます。
間違った問いを説き続けると経営判断を誤る
経営において重要なのは、正しく解くことではなく、何を解くべきかを見極めることです。
そのためには、答えを急ぐのではなく、問いによって前提に立ち返る必要があります。
優秀さは武器になりますが、同時に判断を誤らせる要因にもなります。
だからこそ、自分の前提を疑い続けることが、経営判断の精度を高める最も確実な方法です。
よくある質問(FAQ)
Q1. なぜ優秀な経営者ほど経営判断を誤るのですか?
A1. 問題を解く力や実行力が高いほど、目の前の現象に対して素早く対応できます。その一方で、前提がずれていた場合でも行動を積み重ねてしまい、結果として誤った判断を強化してしまうからです。
Q2. この記事でいう「前提」とは何ですか?
A2. 前提とは、売上低下や問い合わせ減少といった現象の背景にある土台のことです。誰に、どんな価値を、どの市場で提供するのかといった判断の出発点を指します。
Q3. 現象に対応することの何が問題なのですか?
A3. 現象はあくまで結果であり、原因そのものではありません。目の前の現象だけを見て対策を打つと、一時的に動いているように見えても、本質的な問題が残ったままになりやすいからです。
Q4. 経営判断を誤らないためには何を確認すべきですか?
A4. まず、その課題が本当に顧客にとって重要な問題なのかを確認することです。そのうえで、課題の原因が戦略にあるのか、それとも実行の精度にあるのかを切り分けることが重要です。
Q5. 中小企業やベンチャー企業の経営者に特に重要なのはなぜですか?
A5. 中小企業やベンチャー企業は使える時間や資金が限られているため、間違った問題に取り組む損失が大きくなります。だからこそ、何を解くべきかを見極める判断がより重要になります。



