若手の退職が止まらない会社には優秀な中間管理職が存在しない理由

近年、若手社員の早期離職が企業にとって大きな課題となっています。転職が一般的になった社会背景に加え、若手が職場に求める価値が大きく変化していることが原因です。これまでのように、給与や福利厚生など表面的な待遇だけでは、彼らの心を引き留めることはできません。
特に注目すべきは、「自分がこの会社で成長していけるか」「尊敬できる上司がいるか」といった、キャリア形成や人間関係に対する期待値です。その期待が裏切られたとき、彼らは迷わず次の職場を探し始めます。
本記事では、若手の退職が止まらない真の理由として、中間管理職の存在とその機能不全に焦点を当てます。なぜ魅力的な管理職がいないのか?そして、それが若手の退職にどう影響しているのか?企業が取るべき解決策までを含め、具体的に解説していきます。
この記事のポイント
- ✅ 若手離職の本質とは
中間管理職の質が離職率に大きく影響します。 - ✅ 魅力的な上司が不足
成長を促すロールモデルが職場にいない。 - ✅ 離職防止の具体策
育成制度と対話の仕組みが有効です。
若手社員の退職はなぜ止まらないのか
(2025年 doda「転職理由ランキング【最新版】 みんなの本音を調査! 」より
「給料より未来」を重視する時代
かつては高い給与や安定した雇用が働く動機として重視されていましたが、今の若手社員が企業に求めるものはそれだけではありません。現在の20代〜30代前半の層は、仕事を通じての成長やキャリアパスの明確さを重視する傾向が強まっています。将来の自分を重ねられるような職場環境でなければ、長く働こうとは考えません。
信頼できる上司とキャリア形成
若手社員が会社に定着するためには、信頼できる上司の存在が欠かせません。職場で日々接する上司が、ただ指示を出すだけでなく、成長を支援し、フィードバックを行う存在であることが期待されています。上司との信頼関係が築けなければ、若手は組織に希望を持てず、離職の決断に至る可能性が高まります。
データが示す若手離職の現実
厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」によると、大卒者の3年以内離職率は30%を超えています。また民間調査では、「将来のキャリアが描けない」「尊敬できる人がいない」ことを離職理由に挙げる人が多数存在しています。こうした背景から、今の若手が会社に定着するかどうかは、組織の人材育成の在り方に大きく左右されていることがわかります。
今の中間管理職は“なぜ部下を育てられない”のか?
プレイングマネジャーの限界
多くの企業で、中間管理職はプレイングマネジャーとして自分の業務をこなしながら部下のマネジメントも担っています。しかし、日常業務に追われて時間的余裕がないため、部下の育成に割けるリソースが限られてしまうのが現実です。特に成果主義が強い現場では、短期成果を優先せざるを得ず、育成やフィードバックが後回しにされています。
業務の細分化が育成を妨げる
最近の職場では、業務が細分化され、各社員が狭い範囲の仕事だけを担当するケースが増えています。これにより、上司が部下の全体業務を把握できず、的確な指導や成長支援が難しくなっています。結果として、育成に必要な観察・対話・助言が機能しづらくなり、「放置型マネジメント」に陥ることが多くなっています。
教える文化の形骸化
OJT(On the Job Training)という言葉は今でもよく使われますが、実態としては業務を丸投げして「自分で覚えて」と済ませてしまうケースが目立ちます。これは、教えること自体が評価されない風土と、教えるスキルを持たない管理職が多いことに起因しています。
育成スキルの不足
そもそも現在の中間管理職の多くは、管理職になる過程で「人を育てる方法」を学んでいません。業務遂行能力のみで昇進し、マネジメントは現場で独学という構図です。そのため、部下の性格や特性に応じた指導や、キャリア設計の支援ができず、若手からの信頼を得られない状況に陥ります。
こうした状況が続くと、若手社員は上司への期待を失い、仕事に意味を見出せなくなります。一部の社員は「静かな退職」として最低限の業務だけを淡々とこなすようになり、組織の活力を奪う原因になります。
魅力的な中間管理職が生まれない“3つの理由”
1. 育成が評価されない制度
多くの企業では、育成やマネジメントの成果が評価に反映されにくい構造になっています。たとえば、部下を育ててチーム全体の成果が向上したとしても、定量的に示しにくいため個人評価に直結しないことが多いのです。これでは管理職が部下育成に本気で取り組もうとする動機が薄れてしまいます。
2. ネガティブな管理職イメージ
管理職は「責任ばかり重くて報われない」「板挟みでつらい」といったネガティブな印象を持たれやすい役割です。特に中間層は上からの指示と下からの不満の両方を受ける立場にあるため、精神的な負担が大きく、魅力あるポジションとして若手に映らなくなっています。
3. 教育機会の不足
そもそも管理職になる前に、マネジメントやコミュニケーションの研修を受けていない社員が多いのが実情です。現場で「とりあえずやってみて」型の育成が常態化し、結果的にリーダーとしての基礎力が欠如したまま任命されてしまいます。こうした状況では、魅力的な上司像は育ちようがありません。
このような背景から、最近では管理職への昇進を辞退する社員も増えており、「責任ばかり重くて損をする役職にはなりたくない」と考える若手が増えています。中には、昇進やキャリア面で正当な評価を受けられなかったと感じた社員が、より良い条件の職場に転職し、結果的に旧職場を見返すような「リベンジ退職」を果たすケースもあります。
若手は中間管理職を“見て”辞めている
上司は会社の“未来の象徴”
若手社員が会社に対して希望を持てるかどうかは、「目の前の上司」に大きく左右されます。日々の業務で最も関わる相手が信頼できる存在であるか、自分の成長を支援してくれるかによって、将来のイメージが形成されます。上司の背中に将来の自分を重ねられないと感じた瞬間、若手の心は会社から離れていくのです。
ロールモデル不在が与える影響
キャリアにおいて“なりたい姿”を見せてくれる先輩や上司の存在は非常に重要です。しかし、中間管理職が疲弊し、育成に時間を割けなかったり、自信を失っていたりすると、若手は「この会社にいても成長できない」と判断しやすくなります。職場にロールモデルがいない状態は、若手社員にとって未来を描けない職場そのものです。
信頼の喪失から離職へ
「上司が信用できない」→「会社全体も信用できない」→「自分の将来も不安」
といった負の連鎖が、若手の離職につながります。
このプロセスは一気に起こるのではなく、日々の小さな失望の積み重ねによって進行していきます。やがては感情のエネルギーすら失い、「惰性で仕事をする」状態に陥り、離職という結論に至るのです。
中間管理職が育たない会社では、自然と若手の士気も下がり、組織全体のパフォーマンスが鈍化していきます。これは個人の問題ではなく、組織が構造的に抱えるリスクです。
若手の離職を止めるために企業が今すぐやるべきこと
魅力的な中間管理職を「育てる仕組み」がカギ
若手の離職を防ぐためには、目の前の中間管理職が「この人のもとで働きたい」と思わせるような存在であることが不可欠です。そのためには、単に個人の努力に任せるのではなく、企業が中間管理職を育てる「仕組み」を持つことが重要です。
対策1:育成型評価制度の導入
まず必要なのは、部下の育成に取り組んだ管理職を適切に評価する制度です。成果を出すことに加え、チームメンバーの成長度や定着率などを評価指標に取り入れることで、「育てること」に対する意欲が生まれます。
対策2:1on1やコーチングによる育成支援
定期的な1on1ミーティングや、外部コーチによる育成支援も有効です。対話を通じて部下の考えを引き出す力は、現場の信頼関係を強化し、離職の兆候を早期に察知するうえでも重要です。管理職が一人で悩まず、サポートを受けながら育成できる体制を整える必要があります。
対策3:プロジェクト主導型業務で成長機会を作る
若手にとって成長実感を得やすいのは、挑戦的な業務に自ら関われる環境です。中間管理職が若手を巻き込んで小規模なプロジェクトを推進する文化を育てれば、実践を通じた育成が可能になります。これは管理職自身のリーダーシップ強化にもつながります。
「この人と働きたい」「この会社で成長できそう」と思える環境を作り出すことが、離職防止の最大のカギです。優れた中間管理職が存在する組織では、自然と若手も定着し、組織全体が活性化していきます。
まとめ:離職は管理職の機能不全が原因
若手の離職が止まらない本当の原因は、給与や福利厚生ではなく、中間管理職の質にあるといえます。中間層が育成や支援の役割を果たせないまま放置されていると、若手は組織に将来を見出せず、転職へと動いてしまいます。
管理職の機能不全を見過ごすことは、企業の競争力や持続性を失うことと同義です。逆に言えば、魅力的な中間層が育っている組織は、自然と若手が定着し、イノベーションも生まれやすくなります。
今こそ、“人を育てる”という組織文化に真剣に向き合うべきタイミングです。中間管理職の成長は、若手社員の未来を照らす最も重要な起点となります。
よくある質問(FAQ)
Q1. なぜ若手社員の退職理由として「上司の存在」が重要なのですか?
A. 若手社員は日々の職場で接する上司の姿を通じて、自分の将来をイメージしています。信頼できる上司がいないと、会社に対する期待や希望も持ちにくくなるためです。
Q2. プレイングマネジャー体制はなぜ問題になるのですか?
A. プレイングマネジャーは自らの業務で手一杯になりやすく、部下の育成に割く時間や精神的余裕が不足しがちです。その結果、若手に対するフォローや対話が不十分になります。
Q3. 育成型評価制度とは何ですか?
A. 育成型評価制度とは、管理職がどれだけ部下の成長に貢献したかを人事評価に反映させる仕組みです。チームの成果や定着率、スキル向上などを評価対象とすることで、育成への意欲を高めます。
Q4. 離職を防ぐ1on1ミーティングのポイントは?
A. 定期的な1on1ミーティングでは、業務報告だけでなく本人の不安やキャリア意識にも触れることが重要です。傾聴を重視し、信頼関係の構築を目的とします。
Q5. 中間管理職にリーダーシップを持たせるには何が必要ですか?
A. 教育機会の提供や裁量権の明確化が重要です。また、プロジェクト単位での責任を持たせることで、自律的な判断力と育成意識が育まれます。
投稿者プロフィール

- エグゼクティブコーチ/経営コンサルタント
-
1968年生まれ。兵庫県出身。
玩具業界(商社)、映画業界を経て人材サービス業界で20年働く。
代表取締役として年商10億円台の人材サービス会社を70億円台まで成長させる。
経営の傍らで多くの経営者と交流し、中小企業の社長の立場でコーチング、コンサルティング実績を積む。
現在はエグゼクティブコーチ/経営コンサルタントとして活動中。
最新の投稿
社長・経営者の悩み2025年6月17日若手の退職が止まらない会社には優秀な中間管理職が存在しない理由 経営者思考2025年6月12日成長できない中小、ベンチャー企業:規模拡大が目的になっていないか? 社長・経営者の悩み2025年6月10日心理的安全性だけでは若手は定着しない:離職を防ぐストレスと成果責任 売上・利益2025年6月5日社長が実践するKPIとマーケティングで中小企業の売上を最大化できる理由