「静かな退職」と「静かな退出」の違いとは?生産性とエンゲージメントの関係

はじめに:見えない離職が進行している
近年、多くの企業で「社員が辞めていないのに成果が出ない」という現象が起きています。
その背景には、見えにくい形で進行する「静かな退職(quiet quitting)」と「静かな退出(quiet exit)」の存在があります。
これらはどちらも明確な離職ではないにもかかわらず、組織にとって大きな損失をもたらします。
特に中小企業やベンチャー企業においては、一人ひとりの貢献度が業績に直結するため、社員の“やる気の低下”や“心の離脱”に早く気づき、対策を講じることが非常に重要です。
本記事では、「静かな退職」と「静かな退出」の違いを明確にしながら、それぞれの兆候と対策、そして生産性やエンゲージメントとの関連性について解説します。
この記事のポイント
- ✅静かな退職とは何か
必要最低限だけ働く社員の心理と背景を解説。 - ✅ 静かな退出の深刻さ
職場への関与消失が組織全体に与える影響を明らかに。 - ✅ 離職を防ぐ戦略とは
エンゲージメント向上のための具体的な組織改善策を紹介。
「静かな退職」の意味と現場での例
静かな退職とは何か?
「静かな退職(quiet quitting)」とは、社員が正式な退職手続きは取らないものの、業務に対する積極性を失い、最低限の仕事しかしなくなる状態を指します。
表面的には出社しており、指示された業務もこなしているように見えますが、自発的な行動や改善提案、チームへの貢献は見られなくなります。
なぜ静かな退職が起きるのか?
背景には、仕事に対する不満や将来性への不安、評価制度への不信感などがあり、社員は「頑張っても報われない」と感じていることが多いです。
また、過度な業務負荷やマネジメントの不在も原因となります。
近年は「ワークライフバランス」への関心が高まり、「仕事は仕事」と割り切る傾向も増えています。
現場で見られる静かな退職の兆候
- 業務上の会話以外を避ける
- 成長機会を求めない
- 新しい提案をしなくなる
- ミーティング中の発言が減る
「静かな退出」とは?より深刻な組織的課題
静かな退出は個人問題ではなく、組織全体の問題
「静かな退出(quiet exit)」とは、社員が明確に辞めることなく、徐々に業務への関与を失っていく状態を意味します。
これは「静かな退職」よりもさらに広い概念で、個人の姿勢だけでなく、職場環境や企業文化そのものが影響しています。
Gallup社が2025年に発表したレポート「Why Americans Are Working Less」によると、2019年から2024年にかけて、平均労働時間は44.1時間から42.9時間に減少し、特に35歳未満の社員では年間で2週間分の労働が失われている計算になります。
なぜ静かな退出はより危険なのか?
静かな退出が怖いのは、それが一人にとどまらず、組織全体に波及するリスクがあるためです。
社員が少しずつ関心を失い、同僚とのつながりを弱め、業務を「やり過ごす」ようになると、チーム全体の活気や生産性も下がっていきます。
この現象を放置しておくと、突然の大量離職やプロジェクトの崩壊といった深刻な結果を招く可能性があります。
Gallup調査にみる静かな退出の実態
また、Gallupの2025年調査「U.S. Employee Engagement Sinks to 10-Year Low」
では、米国企業における従業員のエンゲージメントが10年ぶりの低水準(31%)に達したと報告されています。
特に35歳未満の若手社員において、関与度と満足度が急落しており、これは静かな退出が進行している象徴的なデータといえるでしょう。
違いを理解しないと対策はできない
「静かな退職」と「静かな退出」は別物
一見似たように見える「静かな退職」と「静かな退出」ですが、両者は本質的に異なります。
「静かな退職」は個人の内面的な選択に起因するものであり、「必要最低限だけ働く」という防御的な姿勢を意味します。
一方、「静かな退出」はより深刻で、個人の感情にとどまらず、組織文化や経営体制そのものに問題があることを示しています。
比較表で違いを整理する
項目 | 静かな退職 | 静かな退出 |
---|---|---|
主体 | 個人 | 個人+組織 |
動機 | 働きすぎの反動 | 意義・信頼・関与の喪失 |
兆候 | 最低限の業務しかしない | 関係性の希薄化、生産性の長期低下 |
影響 | 本人のパフォーマンス低下 | 組織全体の成果・士気に波及 |
社員のエンゲージメントがなぜ落ちるのか?
共感できない組織ビジョンがモチベーションを削ぐ
従業員のエンゲージメントが低下する大きな要因の一つは、企業が掲げるビジョンやミッションと、社員自身の価値観が乖離していることです。
特にZ世代やミレニアル世代においては、「意味ある仕事」に対する感度が高く、単なる報酬では長期的な満足を得られません。
適切なフィードバックの欠如
前述のGallupの調査「U.S. Employee Engagement Sinks to 10-Year Low」によると、エンゲージメントが高い社員は、過去7日以内に成果を認められた経験を持っている傾向が強いとされています。
裏を返せば、評価や承認が欠如した職場では、社員のモチベーションは着実に低下します。
心理的安全性の不足
安心して発言できる環境がなければ、社員は次第に沈黙し、受動的な姿勢に傾いていきます。これは静かな退職・退出の温床になります。
心理的安全性の高い組織は、意見が活発に交わされ、問題発見や改善提案が自然に生まれる土壌となります。
生産性低下は何が引き起こすのか
見えにくい関与の欠如
表面上は勤務しているように見えても、内面では関与が薄れ、「ただ時間を過ごすだけ」の状態になると、実質的なアウトプットは大幅に下がります。
これは組織にとって最も見落とされやすい生産性の損失です。
働く時間が減少した背景にあるもの
アメリカにおける労働時間の減少は、単なる「働き方改革」や「ワークライフバランス志向の強まり」だけでは説明しきれません。
先に紹介したGallupの分析によれば、従業員の職場への関与度(エンゲージメント)の低下が、出勤していても意欲的に取り組まない「心理的な離脱」を引き起こしており、これが結果的に労働時間の短縮やアウトプットの減少へとつながっていると示されています。
このような心理的な切り離され感は、「静かな退職」や「静かな退出」と密接に関係しています。
特に、若年層がキャリアに対して抱える不安や、成長実感の欠如が引き金となって、時間的にも精神的にも「引いていく」傾向が加速しています。
若手社員の関与低下が全体に波及する
同調査によれば、特に35歳未満の若手社員において、関与の低下が顕著です。
この層は情報発信や文化づくりの中核を担う存在であり、彼らのモチベーションが下がることは、組織全体の活力に直結します。
生産性を支えるのは、単なる勤務時間ではなく「意味のある仕事への没頭」であることが浮き彫りになっています。
経営者が知っておくべき予兆と対処法
「声なき離職」の前兆を見逃さない
静かな退職や退出は、突然始まるものではありません。
多くの場合、業務に対する熱意の低下や、チームとの関係が希薄になるなど、事前に小さな兆候が現れます。
経営者が最も注意すべきポイントは、「自発性の消失」と「フィードバックへの反応の鈍化」です。
社員が提案をしなくなったり、指摘に対して無表情にうなずくだけの状態になったら、危険信号です。
日報・1on1では見抜けない「関与の質」
表面的には報告・出勤していても、本音では会社に興味を持たなくなっているケースが増えています。
定例ミーティングや1on1だけでは把握しきれない「エンゲージメントの温度感」を、普段のちょっとした行動変化や沈黙から読み取る観察力が求められます。
静かな退出・退職を防ぐための組織戦略
フィードバック文化を定着させる
Gallupのレポート「U.S. Employee Engagement Sinks to 10-Year Low」でも示されている通り、成果を適切に認められる環境は、エンゲージメントを大きく高めます。
日々の小さな成果に対してもフィードバックを返す仕組みを整えることで、社員は「見られている」「価値がある」と感じられるようになります。
キャリアと成長の対話を日常化する
- 「あなたはここでどうなりたいのか」
- 「会社はあなたにどう貢献できるか」
そうした対話を継続的に行うことで、社員は目標を自分ごととして捉えやすくなります。
静かな退出を防ぐためには、職場での未来をポジティブに描ける環境づくりが欠かせません。
心理的安全性と裁量の両立
安心して発言できる環境と、業務に対する主体性が両立している組織は、静かな退職とは無縁です。
逆に、裁量だけを与えて放置したり、過度に管理しすぎることが、社員の関与を徐々に薄めていきます。
経営者としては「任せる」と「支える」のバランスを意識する必要があります。
まとめ:違いを知れば、離職は防げる
静かな退職と静かな退出は、いずれも企業にとって「見えにくい損失」を生み出します。
両者の違いを正しく理解し、社員一人ひとりの関与度や心理状態に目を配ることが、離職を未然に防ぐ鍵です。
特に中小企業やベンチャー企業では、1人の影響力が大きいため、エンゲージメント低下や静かな退出が広がる前に手を打つ必要があります。
経営者が率先して「関わり、聴き、支援する」文化を築くことで、真に成果を出せる組織が育っていきます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 静かな退職とは何ですか?
静かな退職とは、従業員が会社に在籍したまま必要最低限の業務しかしなくなる状態を指します。外見上は勤務していても、関与度が低下しています。
Q2. 静かな退出との違いは何ですか?
静かな退出は、組織への信頼やつながりが失われ、心理的に職場から距離を置く状態です。静かな退職よりも深刻で、組織文化全体に影響を及ぼします。
Q3. エンゲージメントが低下する原因は何ですか?
ビジョンとの乖離、承認不足、心理的安全性の欠如などが主な原因です。特に若手社員は「成長実感」が得られないと関与を失いやすくなります。
Q4. どのように予兆を見抜けばよいですか?
自発性の欠如、発言量の減少、会議での無反応などが予兆です。定例報告では見えにくいため、日常の行動観察が重要です。
Q5. 経営者として何から始めるべきですか?
まずはフィードバックの質を高め、1on1で社員の本音を引き出す環境づくりが効果的です。対話と信頼の文化が離職防止につながります。
投稿者プロフィール

- エグゼクティブコーチ/経営コンサルタント
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1968年生まれ。兵庫県出身。
玩具業界(商社)、映画業界を経て人材サービス業界で20年働く。
代表取締役として年商10億円台の人材サービス会社を70億円台まで成長させる。
経営の傍らで多くの経営者と交流し、中小企業の社長の立場でコーチング、コンサルティング実績を積む。
現在はエグゼクティブコーチ/経営コンサルタントとして活動中。
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