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山下午壱
1968年生まれ。兵庫県出身。 玩具業界(商社)、映画業界を経て人材サービス業界で20年働く。 代表取締役として年商10億円台の人材サービス会社を70億円台まで成長させる。 現在はエグゼクティブコーチ/経営コンサルタントとして活動中。
社員は会社より社長を見ていないか ~社長の承認が社員の判断を歪める理由

「社長、これでいいでしょうか」「一度、社長に確認します」。中小企業の現場では、よくある会話だと思います。私自身、経営者の方と話していると、このような確認が日常的に行われている会社は少なくありません。

もちろん、重要な判断で社長の承認を得ること自体が悪いわけではありません。ただ、何を決めるにも社長の承認が必要になると、別の問題が起きます。社員が考える基準が「会社にとって何がよいか」ではなく、「社長がどう思うか」に変わっていくからです。

今回は、Netflixの組織文化を扱った『NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX』を手がかりに、「承認」が社員の判断に与える影響について考えてみます。

記事3行まとめ
  • ✅社長の承認が増えるほど、社員は会社より社長を見る
  • ✅承認の本質的な問題は、社員の判断基準を歪めること
  • ✅社員には答えではなく、会社の判断基準を渡すべき

 

第1章 「社長に確認する」が当たり前になっていないか

社員が社長に確認することは、一見すると慎重で、報告や相談ができているようにも見えます。しかし、確認の回数が増えすぎると、社員は自分で判断する前に「社長に聞く」という行動を選ぶようになります。

私が経営者の相談を受けていて感じるのは、社員が何でも聞いてくる会社ほど、社長自身も丁寧に答え続けていることです。社員から聞かれれば、社長は経験も知識もあるので、答えを出した方が早い。短期的には、その方が仕事は進みます。

しかし、それが積み重なると、社員の中に「自分で決めるより、社長に確認した方が安全だ」という学習が起きます。問題は報連相の多さではなく、判断の主体が誰なのかです。

第2章 Netflixが「上司の承認」をなくした理由

「上司を喜ばせるな」というNetflixの考え方

Netflix共同創業者のリード・ヘイスティングスとエリン・メイヤーによる『NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX 』第6章のタイトルは、“意思決定にかかわる承認を一切不要にする”です。意思決定に上司の承認を必要としない、という考え方が示されています。

その中には、“DON'T SEEK TO PLEASE YOUR BOSS.”という言葉も登場します。日本語にすれば「上司を喜ばせようとするな」という趣旨です。

承認をなくす目的は、速さだけではない

この考え方を、単純に「承認をなくせば意思決定が速くなる」と捉えるだけでは不十分だと私は思います。重要なのは、社員が誰を見て判断するのかです。

上司の承認が最終ゴールになれば、社員は上司が好む答えを探します。一方、自分に判断する権限があれば、顧客や市場、会社の目的を見ながら、自分自身で結論を出さなければなりません。Netflixの考え方で注目したいのは、この判断の向き先の違いです。

第3章 承認を求めるほど判断基準が「会社」から「社長」へ変わる

社員が考えるのは「何が正しいか」ではなくなる

承認を前提にした組織では、社員にとって重要なのは「自分の判断が妥当か」よりも「承認されるか」になりやすくなります。すると、顧客にとって何がよいか、会社にどんな利益があるかより、「社長ならどう考えるか」が優先されます。

これは社員が悪いのではありません。最終的な決定権が社長にあるのであれば、社長の考えを読むことは社員にとって合理的な行動です。

社長の正解を探す社員が増えていく

そして社長が毎回答えを出していると、その傾向はさらに強くなります。社員は自分の仮説をつくるより、過去に社長が何と言ったかを探すようになります。

私も会社員時代を振り返ると、「この上司なら何と言うだろう」と考えて資料をつくった経験があります。その方が承認を得やすいからです。しかし、それは会社にとって最善の案を考えることと、必ずしも同じではありません。

第4章 「社長ならどうするか」を考える社員で本当によいのか

社長の考え方や会社の方針を社員が理解することは重要です。ただし、「会社の考え方を理解すること」と「社長の答えを当てること」は違います。

私が社員に求めるべきだと思うのは、社長と同じ答えを出すことではありません。会社が何を目指しているのか、顧客にどんな価値を提供するのか、その判断によってどんなリスクがあるのか。そうした情報をもとに、自分なりの答えを出すことです。

結果として社長と違う結論になることもあるでしょう。しかし、その違いを議論する方が、最初から社長の正解を探すより、組織にとって健全ではないでしょうか。

社長の顔色を読める社員を増やしても、社長がいなければ判断できない会社になります。必要なのは、社長がいなくても会社の目的に沿って考えられる社員を増やすことです。

第5章 社長が渡すべきなのは「答え」ではなく「判断基準」

だからといって、明日から「もう私に聞くな。全部自分で決めろ」と言えばよいわけではありません。それでは権限委譲ではなく、単なる丸投げになってしまいます。

社長が社員に渡すべきなのは、答えではなく判断基準です。何を優先するのか、どこまで自分で決めてよいのか、どの程度のリスクなら許容できるのか。そこを明確にしたうえで、その範囲では社員自身に判断してもらいます。

承認を減らすとは、管理をなくすことではありません。判断する権限と責任を、判断すべき人に移していくことです。権限委譲そのものについては、別の記事で詳しく書いていますので、あわせて読んでいただければと思います。

第6章 社員が見るべき相手を「社長」から「会社」へ戻す

すべての承認をなくす必要はありません。会社には、社長や経営陣が判断すべき重要な意思決定もあります。

ただ、何でも社長の承認が必要な会社になっているなら、一度考えてみる必要があります。社員が見ているのは、顧客や市場、会社の目的でしょうか。それとも、社長の反応でしょうか。

社員が「社長はどう思うか」ではなく、「会社にとって何が最善か」を考え、自分で判断できる組織をつくる。そのために社長自身が、どこまで承認を手放せるかを考えることが、組織を成長させる一歩になると私は考えています。


よくある質問(FAQ)

Q1. 社長の承認は、できるだけなくした方がよいのでしょうか?

すべての承認をなくす必要はありません。経営に大きな影響を与える判断や、社長が責任を負うべき重要な意思決定には承認が必要です。問題なのは、社員が自分で判断できることまで社長の承認を必要としている状態です。

Q2. 承認を減らすと、社員が勝手に判断するようになりませんか?

承認を減らすことと、社員に自由に判断させることは同じではありません。何を優先するのか、どこまで自分で決めてよいのか、どの程度のリスクまで許容するのかといった判断基準を明確にしたうえで、権限を渡すことが重要です。

Q3. 社員が何でも社長に確認するようになる原因は何ですか?

社員側だけに原因があるとは限りません。社員から相談されるたびに社長が答えを出していると、「自分で考えるより社長に聞いた方が安全だ」という行動が定着します。社長自身が承認を求める組織をつくっていないかを振り返る必要があります。

Q4. 社員に渡すべき「判断基準」とは何ですか?

会社が何を目指しているのか、顧客にどのような価値を提供するのか、何を優先するのか、どこまでのリスクを許容するのかといった考え方です。社長の答えを覚えさせるのではなく、社員自身が判断するための基準を共有します。

Q5. 権限委譲と丸投げは何が違うのでしょうか?

権限委譲は、判断できる範囲と責任、判断基準を明確にしたうえで社員に意思決定を任せることです。一方、基準や範囲を示さずに「自分で考えてやって」と任せるだけでは丸投げになりやすく、社員の判断力を育てることにはつながりません。

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